あまりにも、惨いこと
何故このタイミングで。
魔王が此処に現れた意味は。
ドラゴンが2人そろった場所にわざわざ攻め込んでくる意味は。
色々な疑問が溢れてはくる。しかし何がどうであるにせよ、やらなければならないことが1つある。
「アイアース! 2人を……」
言いかけたその瞬間。魔王の声が響く。
「俺に従え。魔王軍に加われ。世界を共に征服しようではないか」
キコリの中に何かが入ってこようとして、しかしキコリが全身に魔力を巡らせ「竜化」したことで弾かれる。そこまでは予想通りだ。だが……。
「オ、おおおおおおおお!」
「グッ、ドド……!」
その目に、身体に殺気をたぎらせたドドがキコリの頭を掴み力を入れてくる。
普段であればそのまま潰されていたかもしれないドドの怪力はしかし、竜化したキコリの頭も兜もへこませることすらできない。だがそれは普段であればキコリを殺せていたということであり、ドドが本気でキコリを殺しにきたという意味でもある。
「キコリ……! お前は危険だ。魔王様のため、お前を殺さなければ!」
「正気に戻れドド! 分かってるはずだろう、お前は魔王の能力について聞いたはずだ……!」
「聞いたとも。そのうえで今はこれが正しいと言い切れる……! 魔王様の力が効かぬお前を殺せるのもドドだけだ!」
ドドはその腕力でキコリを振り回し家の壁にたたきつける。激しい音をたてて壊れた壁はしかし、今のキコリよりは当然のように脆い。
「やめろドド! 俺たちが戦う意味はない!」
「ある」
走るドドはそのままキコリに強烈なけりを食らわせ再度吹き飛ばす。その動きに、一切の迷いは見えない。
(操られてるわけじゃない。優先順位が変わっただけ……それがこんなにも厄介だ……!)
ドドがドドらしく、ドドの考えとドドの鍛え上げた技で魔王の為に襲ってくる。
もちろん、ドドを倒せないわけではない。ないが……しかし、それはあまりにも。
「キコリ! お前がドドを仲間と思ってくれているのならば! その情にすがりドドは反撃できぬお前を殴り殺す!」
「そんなのドドらしくないだろう!」
「ああ、ドドは誇りを投げ捨てた! しかしこれこそが魔王様に捧げるドドの忠誠! 誇りを捨て、仲間を捨てて! 最大の戦果をドドは忠誠の証として持ち帰ろう!」
「ドド……!」
これが魔王の「従属」の力だというのか。しかし、これはあまりにも。あまりにも惨い。
本人の正気を保ったまま、その価値観を塗り替える。
誇りも、絆も、何もかもが忠誠のための道具になる。
これだって魔王の命令ではない。魔王の為にドドが自分で考えたことなのだ。
それは……あまりにも、惨いことだった。
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