魔王
「準備……?」
「おう。どのくらいかは分からねえが……いると思うぜ、手下」
従属させた連中がな、とアイアースは続けて。キコリもその意味を理解する。
それは当然、有り得る……いや、確定した話だった。
情報流出の過程を考えれば、フレインの街に魔王軍の情報源はすでにいる。
「従属」の能力を考えれば、表面上は今までとなんら違いない可能性だってある。
「そうだな……確実にいる。俺とアイアースが抜ければ、それが魔王に伝わる……か」
「おう。この街を従属させるための計画をたてていたところに俺様たちがやってきた。邪魔だがどうにも出来ねえ。で、そこに俺様たち2人が抜けたらどうなる?」
「魔王が直接やってくる……か」
「そういうこった。だから俺様は動かねえ。まあ、こいつ等は守ってやるからよ」
それが最善だ。全員連れていくよりも、その方が余程安全なのは間違いない。
「で、魔王軍の居場所についてだが……」
「どうせまた接触してくる。その時に嫌でも分かるさ」
「それが最善だな」
向こうはドラゴンの勧誘を諦めていない。だから、キコリが話をしたいと言えば必ずのってくる。
それが向こうに近づくためのチャンスであり……オルフェたちと離れてしまう大きな隙であった。
だから、キコリはアイアースへと頭を下げる。この場にアイアースがいてくれたことが、心の底から有難かったからだ。
「ありがとう、アイアース。本当に助かる。いてくれてよかった」
「おう。借りだの貸しだの面倒なことは言わねえからよ。キッチリ解決してこい」
「ああ、そうする」
アイアースの差し出した拳に、キコリは自分の拳をぶつける。
本当に……本当に有難い話だ。何も心配は要らない。そう考えるキコリに、オルフェは静かに視線を向ける。
「……ついていきたいのは山々だけど。今回ばかりはダメそうね」
「ああ。2人とも、此処で待っててほしい。何が起こるか分からないから」
「そうするわ」
「ああ」
2人とも頷き、ドドがその大きな身体を申し訳なさそうにすくめる。
「ドドは自分が情けない。隣に立てるように強くなったはずなのに、また役に立てない」
「相性の問題だ……仕方ないさ」
「無事を祈る」
ドドとも拳をぶつけ合うと……大きくなったオルフェがその隣に並んで拳を突き出している。
「えーと……」
「何よ。あたしだけのけ者にしようっての?」
「ああ、いや。ごめんな」
オルフェとも拳をぶつけ合って。オルフェが「うん」と満足そうに微笑む。
何が満足だったのかは分からないが……まあ、仲間同士の儀式なのだ。それに混ざったのが満足なのかもしれないとキコリは思う。
「じゃあ、行ってくる」
そうして、キコリはドアを開けて。空に、大きな影が差す。
ワイバーン……いや、あの巨大さはグレートワイバーンだ。
その背に乗っている黒髪の男は、まさか。
「モンスターの街の住人たちよ、傾聴せよ」
その言葉は拡声魔法を使われているのだろう……遠く、大きく響く。
「俺が魔王トールだ」
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