薪を割るみたいに
どうすればいいのか。キコリの中には正解が浮かんではこない。
そもそもキコリは、手加減して相手をどうこうするなんていう技を会得してはいない。
キコリが会得しているのは不器用でも扱える、破壊力の高い技ばかり。そんなものを使うわけにはいかない。
唯一どうにかなりそうなのはウォークライやドラゴンロアくらいのものだが、それだって一時的に動きを止めるものでしかない。それに、何よりも。
(アレには殺意が要る。だがドドに殺意を? 俺が? 無理だ……!)
キコリにとって、ドドは大切な仲間であり友人だ。そんなドドに対し自分の中を殺意で満たすなど、出来るとは思えない。
そんな動揺するキコリを見据え、ドドは大きく腕を振るう。
「そうだな。キコリ、お前はそういう尊敬できる友だ……! その友情を踏みにじるドドを許せなどとは言わん……!」
「ぐっ……!」
ドドの拳に殴られ、キコリはドアを破壊しながら外へと転がり出る。そこには当然ながら通行人を含むフレインの街の住人たちがいて。
「お、おい!?」
「キコリ、ドド!? 何してんだお前ら!」
「あ……」
『従属』の力を防げた者もいたんだ。キコリがそう安堵した、その瞬間。ドドが叫ぶ。
「キコリは魔王様の配下ではない! 此処で仕留めなければならん!」
瞬間。フレインの街の住人たちの瞳が、剣呑なものに変わる。友を見る目から、敵を見る目へと。
ゾッとするような、その瞳の変化は……キコリの中に確かな動揺を引き起こす。
まさか、こんな。一瞬で白から黒に変わるような、そんなことが。
「魔王様の……?」
「そうか。それなら、放置するわけにはいかないな……」
「ああ。キコリは強すぎる」
「俺たちだって『そっち側』なら従わない。やるしかない」
ドドと同じだ。キコリはそう気付く。全員、正気でいつも通りの思考もキコリへの感情も、全て保ったままで優先順位の最上位が「魔王トール」に切り替わっている。つまり、これは……フレインの街をそのまま綺麗に乗っ取ったということだ。
「殺せ!」
「キコリを殺せ!」
「全員でかかれ! 魔王様のために命をかけろ!」
武器を握り襲ってくるフレインの街の住人の攻撃はしかし、竜化したキコリの防御は貫けない。
スケルトンの剣が、ゴブリンのナイフが、ミノタウロスの斧が、オーガの棍棒が、ゴーストの魔法が……次から次へとキコリへ降り注いで。それでも、キコリは無傷。
「魔王トール……」
上空のグレートワイバーンに乗っている魔王トールへとキコリは殺意を込めた視線を向ける。
フレインの街の仲間へは殺意を抱けなくても。
「殺す。お前は殺すぞ、魔王トール。薪を割るみたいに、お前の頭を真っ二つにしてやる」
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