完全なるドラゴンロア
「出来ねえよ」
馬鹿にしたような、そんな声が降ってくる。
それは魔王トールの声で……どうやら、此方の声も向こうに聞こえているらしい。
「現地生物のトカゲが粋がりやがって。お前らがどれだけ井の中の蛙か見せてやる」
「訳の分からんことを……!」
そもそもドラゴンの中で蜥蜴のような特徴が全く存在しないドラゴンのほうが多い。しかも何故カエルの話をしたのかも分からない。たぶん異世界の知識なのだろうが……まあ、そんなものをキコリは理解する気もない。
必要なのは殺意だ。ただアイツを殺すという、ただそれだけの濃密な意思。
そうだ、殺す。あの魔王トールとかいう異世界人は、絶対に殺す。
放浪の先で得たこの安らぎの場を、友を、仲間を奪ったアイツは、徹底的に破壊し殺す。
そんな感情を、過去最大の殺意を濃縮し、煮詰めていく。
殺す。ただそれだけの純粋な殺意にその全てが集約されていく。
そうして。キコリを攻撃していたドドやフレインの街の住人たちが、動きを止める。
ドラゴンとしての無限の魔力が殺意に反応し、キコリの周囲が揺らぎ始めているのだ。
それはさながらオーラのようで……触れるだけで気絶しそうな黒い色を纏っていた。
「もう1度言うぞ、魔王トール」
その言葉に、魔王トールではない人々が後退る。
寒い。とても寒い。ここだけ気温が下がったかのように。いや、下がっているのは体温か。血の気が引いて、身体が恐怖を感じて。まるで、ああ、まるで。どうしようもなく格の違う相手に出会ってしまって、もう死ぬしかないと本能が悟ったかのような。
「う、おお……」
魔王トールもまた、脅えているグレートワイバーンの上で青ざめていた。
アレは、アレは一体。違う。トールの知っているドラゴンとは、何かが違う。
「お前を殺す」
感情の消えた……いや、感情が「殺す」の1つのみになったキコリがトールを見上げる。
さあ、宣言しよう。この場にその咆哮を響かせよう。あの「敵」に、それを知らしめよう。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
叫ぶ。咆哮する。奇しくもこの場で完成した『完全なるドラゴンロア』が響き渡る。
かつてオルフェがヴォルカニオンに脅えていたように、全ての生物がドラゴン相手にそうなるように。
世界の力の行使者としてのドラゴンの存在そのものを、どんな鈍感な相手にも知らしめる殺害宣言。それがグレートワイバーンを泡吹き気絶させ、トールを遥か天空から落下させる。
「う、うおおおおおお!? グ、グラウザアアアアアアド!」
落ちていくトールを、空をガラスか何かのように割って現れ救出したのは……銀色の、巨大なドラゴンだった。
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