黒い穴
「グラウザード……!? あの時の……!」
裂空のグラウザード。空を裂く力を持ち、「世界の外」に行けるというドラゴン。
それが、魔王トールに力を貸している?
何故? それがキコリには分からない。
「お前! なんでそいつに力を貸してる!」
「何故? 当然だろう。トールに力を貸すことに、何の不思議がある」
「……その陶酔。まさか」
従属している。しかしドラゴンが? 余程油断していたのか、それとも何か別の理由が?
分からないが、油断できない相手が1人増えてしまった。
(もうそれなりの時間竜化してる。あのどのくらいもつ? それでアイツ等を殺し切れるか?)
だが、やるしかない。キコリは斧を腕の中に出現させ、グラウザードたちを見上げて。
「あーあ、そういうアレだったか。ったく、面倒くせぇことになったな」
キコリの肩に、背後からアイアースが手を置いた。
「アイアース。オルフェは……」
「無事だが、その話は後だ」
「ああ」
端的に、しかしキコリの聞きたいことを的確に答えてアイアースは三叉の槍を出現させる。
「グラウザアアアアド! おいコラこのクソトカゲが! よりにもよって一番恥ずかしいやられ方しやがって! どうせ頭の中単純になってんだろうから簡単に言ってやるよ!」
「アイアース……? 何故そんな姿に。お前のような奴が他の誰かと……」
「うるせーバーカ! 今日からドラゴンで一番のバカ&間抜け&恥さらしはテメエに決定だ! おめでとう三冠王! 祝福するぜえええええ!」
「き、貴様……!」
「落ち着けグラウザード! あの子もドラゴンなのか!?」
「アレは『海嘯のアイアース』! ドラゴンで一番のバカだ! そんなバカが、俺を……!」
上空で暴れるグラウザードを見ながら、アイアースは指差す。
「よし、隙だらけだ。やっちまうぞキコリ」
「あ、ああ」
キコリは斧を、アイアースは三叉の槍を構えて。そこに極限まで魔力を注ぎ込んでいく。
出し惜しみはしない。今は腰を抜かしているフレインの街の住人たちも、再び襲ってくるまでどのくらいあるか分からない。
だからキコリは斧に電撃を纏わせて。アイアースは三叉の槍に水を纏わせる。
「ミョルニル!」
「トライデント!」
斧と槍が空へと投擲され、互いに近い距離にあったせいか、それとも同じ「世界の魔力」を運用しているせいか……互いに近づき、その周囲に巨大な電撃纏う水流を発生させる。
「なっ」
「お、おおおおお!?」
慌てて回避しようとしたグラウザードはしかし、避けきれずに直撃し水流に翻弄されながら電撃にその身体を蹂躙される。
「ガ、ガアアアアアアアア!?」
「トール! くっ……許さぬ……これでも喰らえ!」
グラウザードの顎が開き、黒い魔力弾が放たれる。
当然のようにキコリとアイアースはそれを回避しようとして。しかし、見えない力のようなものに引っ張られていく。
「げっ、こいつは……テメエ、マジで正気じゃねえな!? こんなことして後でどうなると……」
「なんだこれ!? ぐ、ぐぐ……引っ張られる!」
「ハハハハハハ! 知ったことか! 何処へとも知れぬ場所へ消えるがいい!」
黒い魔力弾……いや、それの作り出した黒い穴の中へ、キコリとアイアースは吸い込まれて行った。
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