頭がバーサーカー
ぐにゃりと歪む視界の果て。キコリとアイアースが投げ出されたのは、何処かの荒野だった。
気付けば手の中から斧は消えていて、鎧も兜もない。そしてアイアースも……その三叉の槍が消えていた。
一体何が。分からないが、妙に身体が重い。グラウザードの攻撃の影響だろうが、それにしてもこれは何なのか。
(……違和感がある。まるで、急に弱くなったような……)
ユグトレイルの世界の中に入った時の感覚にも似ているが、違う気もする。試しに斧を出そうとしてみても出ては来ない。それどころか、体内の魔力が非常に少ない。いや、魔力が少ないのは元々なのだが、世界からのチャージが出来ていないように思える。
「アイアース。これは……」
「……信じられねえ」
キコリの言葉に、アイアースはそんな答えになっていない呟きを返す。
愕然とした様子のその表情には段々と怒りが満ちていき、しかしアイアースから感じる圧はほぼ無いに等しい。
「信じられねえ信じられねえ信じられねえ! あのクソバカ、本当に飛ばしやがった! なんだ!? 【従属】とかってのはそこまでヤベえのか! くそっ、まさかやっていいこととダメなことの区別もつかなくなんのかよ!」
「アイアース……?」
「落ち着いてる場合じゃねえぞコラ! 此処が何処だか分かってんのか!」
「え? 何処だ?」
「異世界だよ! あの野郎、俺様たちを別の世界まで吹っ飛ばしやがったんだ!」
「……あいつ、そんなことまで出来るのか。無敵じゃないか」
「無敵じゃねえよ! 他のドラゴンを異世界に送り込むなんざ、禁忌ってレベルじゃねーぞ!」
確かに世界の守護者であるドラゴンを他の世界に送り込むのは問題だし、色々と許されることではないのは確かだ。言語道断だが、アイアースの言っていることはそういうのとは別であるようにキコリには感じられた。
「……倫理とかじゃない問題があるんだな」
「いーや、倫理っちゃ倫理だ。いいか、キコリ。実は俺様よりバカなお前にも教えてやるが、どんな世界にも、一部の例外を除きゃ神は存在するんだよ」
「ああ」
「で、俺たちは俺たちの世界の最強生物だな? それも竜神直々に選ばれた、な」
「そうだな。あ、いや。待て、ということは……まさか」
「そうだよバカ! 俺様たちはこの世界に突然2体も送り込まれてきた異世界最強兵器だ! 何されてもおかしくねえってのに、俺様たちをドラゴンたらしめる権能は使えねえ! 世界が違うからな! どうだ理解できたかバカ!」
つまりこの危険な場所でキコリは竜化も使えないということだが……同時にアイアースもドラゴンの姿になれないということだ。何かあっても大海嘯で押し流してもらうという手も使えない。
「……とにかく武器が要るな」
「お前、マジ頭がバーサーカーだな……まあ、確かに必要だけどよ」
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