次元城の力

「ぐっ……!?」

「てめえ、俺の次元城を……!」


 キコリは剣を引き抜くために前へと飛び、そのまま振り返る。そこにいたのは……虚空の穴から姿を現し飛行しているアサトの姿だった。


「お前……飛べる……いや、今のはなんだ? まさか、転移してきたのか?」


 そう、今のアサトは間違いなく「転移」して「飛行」している。アサトにそんな力があれば次元城の占拠の必要などなかったはずだ。なのに、これは一体どういうことなのか?


「あ? 転移?」


 アサトはそこで初めて気が付いたとでも言うように周囲を見回して、ようやく自分が飛んでいることに気付いて「うおっ」と驚きの声をあげる。


「ハハ……なんだこりゃ。まさかこれってよお……」


 アサトが空中に腕を突き出すと、そこに黒い穴が開く。吸い込まれるように消えていったアサトはキコリの死角に開いた穴から剣を突き出し切り裂くように襲ってくる。


「こ、のっ!」


 キコリは即座にルヴの斧を作り出しアサトの剣を迎撃する。その身体も再びレルヴァの鎧が覆っていくが……それを見てアサトはハハッと笑う。


「ハ、ハハハッ! なんだお前、やっぱり転生者ってやつなのか!? あのときのは知らねえフリかよ!」

「お前の言う世界を俺は知らない。それは真実だ」

「ああ、そうかよ!」


 アサトは再び転移し、キコリの頭上から剣を突き下ろす。殺意に満ちたその一撃をキコリは回避し斧を振るうが、アサトに受け止められる。どうやら、武器術に関しては才能ゼロのキコリよりもアサトのほうが才能があるようだが……それを差し引いても今のキコリの一撃を受けられるアサトは明らかに人間離れしている。


「聞きたいことがあるのは俺だアサト。この力、その能力……! お前、何をやった!」

「難しい話じゃねえよ」


 アサトは剣を振るい、キコリへと縦横無尽に斬撃を仕掛けていく。

 それはキコリが持ちえない、明らかな剣の才能。人間の域を超えた膂力で繰り出される剣は、その「剣」そのものがどうにも普通ではない。


「どうにも俺に次元城の力がコピーされたみてえだな。つまり……俺さえいればもうどうにでもなるってことだ!」


 ギイン、と。武器がぶつかり合い火花を散らす。剣術ではアサトが圧倒的に上。だがキコリの魔力も安定し始めている。先程のような不意打ちであろうと簡単にキコリに次のダメージは与えられない。

 だが……どうにも不安要素がある。先程からアサトの魔力が上がっていっている気がするのだ。

 次元城と同じであるというのであればアサトの魔力が上がっていく理由はない。

 ならば……これは、まさか。


「そうか。次元城はそれ自体が対象に能力をコピーするもの……そういうことか……!」

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