此処なら俺に有利だから

 その「良い場所」はキコリたちがドレイクと出会った、あの絶景地帯だった。

 無数の断崖絶壁に、豊かな木々に滝や川。もうドレイクはいないが、デモンドレイクたちは我が物顔で行き来している。

 醜悪な殺意に満ちたその姿はなんとも邪悪であり、それでいながらデモン同士では殺し合わない妙な秩序を保っている。

 ただ生き残るに必死だった頃ならともかく、今のキコリからしてみれば「この光景」がどれだけおかしいかはよく分かる。だが……きっと人間には分からないだろう。

 

「……嫌な光景だ。世界の終わりってのはこういうのなんだろうな」

「そうね。世界の歪みとかいうのがどうにかなればいいんだろうけど」


 キコリたちがいるのは、あの小屋のある場所だ。比較的高台にあるこの場所にはデモンも現れず、エリアの光景を一望できる。

 支援で貰った物資は小屋の中に運んであるが、キコリが齧っているのは、まさにその一部である固く焼いたパンだった。


「世界の歪み、か。神様が直さないってことはまあ……そういうことなんだろうな」

「キコリは会ったことあるんだっけ」

「ああ。竜神と大神にな」

「改めて聞くととんでもないわね……人間の神官とかは喜ぶんじゃないの?」

「喜ばれてもなあ。お会いしたってだけだし」


 別にキコリが要望を伝えられるわけでもないし、そもそも信じてもらえるかも分からない。わざわざそんなチャレンジをする必要性も感じられないし、詐欺師と言われる可能性の方が高いだろうとも思っていた。そんなものに労力を割く気は、一切なかった。


「まあ、別にそれはいいだろ」

「そうね。で、なんで此処来たの?」

「んー、まあ。色々あるけどな。此処なら俺に有利だからってのもあるな」


 言われてオルフェは不思議そうな表情になるが……やがて「あー」と声をあげる。


「アンタ、まさか……そういうこと?」

「ああ。分かるだろ?」

「分かるけど。ああ、まあ。確かにそれなら他でやるよりは有利ね」


 何をするつもりか察したオルフェは再度このエリアを見回す。

 なるほど確かにキコリが狙っていることが上手く嵌れば、他で戦うよりは多少有利になる。

 創土のドンドリウス。他のドラゴンに負けず劣らずの怪物に立ち向かうにはどれだけの材料があっても足りはしない。唯一どうにか出来そうだったアイアースとも今ははぐれているのだから。


「ていうか、あのシャルシャーンが仲裁に入ればいいんじゃないの? どうせ見てるんでしょうに」

「シャルシャーンか……まあ、来ないだろうな。アイツはアイツで、何か思惑があるみたいだし」

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