1度戻らないとな
「ああ、助かる。ありがとう」
「チッ」
「ええ……?」
「舌打ちくらいさせなさいよバカ。大バカ。無茶ドラゴン」
「いや、それは本当申し訳ないとは思ってる」
「でも無茶するのよね?」
「ああ」
「チッ」
再度舌打ちしながら、オルフェは思う。
一見すればキコリがオルフェの存在に甘えているようにも見えるが、そうではない。
キコリはオルフェが居なければ居ないで、やはり無茶をする生き物なのだ。
前にバーサーカーがどうのと言っていたが、まさに生き様が「それ」なのだ。
オルフェが居なくても結局キコリは無茶をして、何処かで死ぬのだろう。
言ってみればキコリが生きているのはオルフェ自身の選択である……ということだ。
勿論キコリだって死のうとは思っていないだろうし、生きる為に無茶をしている。
だからこそオルフェに素直に礼を言う。
しかし勝たなければ死ぬから無茶をする。同じ状況で「無茶をしない」とは言えない。
この2つが両立しているのが「バーサーカー」という生き方であるのなら……なんとも面倒くさい生き方だとオルフェは思う。
ドラゴンなどというモノになってしまったせいで無茶の度合いが上がってしまったのも悪い。
勿論、ドラゴンもどきでないキコリに当時のオルフェは興味をもたないのは確実だが……まあ、結局キコリがまだ生きているのはオルフェの頑張りの結果とも言えるのだ。
「せめてバーサーカーじゃなけりゃ、もう少しマトモに生きてたのかしらね」
「どうだろうな。防衛都市に来た時の俺は『命を懸ける』しか手札がなかったしな」
「それで本気で命かける馬鹿が何処にいんのよ」
「……此処に?」
オルフェは黙ってキコリの頭の上に移動すると、髪の毛をグイグイ引っ張る。
「いててててて」
「つまんねーのよ。何アンタ、ギャグのセンスも重傷なの? ヒールじゃ治んないわよ?」
「そこまで言うか!?」
ショックを受けた風のキコリにフンと鼻を鳴らすと、オルフェはキコリの髪を離す。
「ま、いいわ。転生ゴブリンもぶっ殺したし、緊急の問題は残ってないわね」
「そうだな」
あのアサトとかいう男もまあ傲慢なだけに思えるし、確かにオルフェの言う通り緊急の問題は残っていない……とキコリも思う。
「防衛伯閣下とのお話もあるし、1度戻らないとな」
「こっちのオッサンがどんな顔してたか忘れちゃったわ」
「……まあ、確かにギザラム防衛伯閣下は1度見たら忘れられない感じだもんなあ」
蜥蜴獣人のギザラム防衛伯の顔を思い出すキコリに、オルフェは「そうよね」と頷いていた。
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