あまり関わらない方が良さそうだな

「まあ、言いたいことは分かったわ。要はあの黒髪がそうだってわけね」

「たぶんな。俺が同郷か確かめようとしたんだと思う」

「ふーん……」


 鍋の中のスープは、すでに良い感じになっている。

 火の魔石を停止させ、キコリは本棚へと向かっていく。

 思い出すのは、ソードブレイカーの魔法が載っていた本だ。


「英雄ショウに関する考察……これだ」

「この本が何だってのよ」

「前にこの本を読んだとき、俺は『英雄ショウ』が転生者だって確信してたんだ」

「ふーん……なんで?」

「分からない。今の俺には、その『確信に至った理由』が思い出せない」


 だが、確か前世の記憶と照らし合わせて確信した……ということだけはキコリは覚えている。

 その肝心の「前世の記憶」が消えてしまっているので、確信に至った理由が思い出せないのだが……。


「別にいいわよ、そんなの。しかし……ふーん?」

「何か気付いたのか?」

「気付いたっていうか……妙じゃない?」

「妙?」


 オルフェがキコリが出した本をなぞると「コレそのものよ」と言う。


「転生だかなんだか知らないけど、さっきのアイツは自分の知ってる言葉でアンタを同郷か確かめようとした」

「ああ」

「で、この本の英雄ショウって奴はアンタがちょっと読んだくらいで分かる程度には同郷の特徴を持ってた」

「そうだな」


 それがどうしたというのか。分からないままにキコリはオルフェへと頷く。


「おかしくない? 人間の社会にだって国も文化も幾つもあるでしょ。なのに、その転生とかいうのがたまたま同郷から何度も出たりするもんかしらね」

「……アイツは偽物ってことか?」

「知らねーわよ。でも、なーんか、こう……引っかからない?」


 そもそも、とオルフェは肩をすくめる。


「転生とやらを騙って、そいつに何の利益があるの?」

「ん……」


 キコリは考えて……やがて「ないな」と答える。


「ない。変な奴って思われる確率の方が高いだろ」

「でしょ?」


 だが、それでも理由があるなら。

 それでも、キコリに転生者を装って接触してきたならば。

 あるいは、本物の転生者だったならば。


「……どちらにせよ、あまり関わらない方が良さそうだな」

「そうね。変な奴だから近寄りたくない、でいいでしょ」

「だな」


 キコリは本を元に戻すと、台所へと戻っていき……その後を、オルフェも飛びながらついてくる。


「でもよかったわね」

「何がだよ?」

「アイツの目的が何であったにせよ……前世とやらの記憶がないおかげで切り抜けられたじゃないの」


 確かに、下手にキコリに記憶があれば動揺していたかもしれない。

 それは喜ぶべき事なのだろう。そう考えている間にもドアが開き「ただいま戻りましたよー!」というアリアの元気な声が響いた。

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