嫌われることに慣れてんじゃねえぞ

 キコリが言った瞬間、アイアースは笑うのをやめて真顔になって首を傾げる。


「ん? すまねえ、どういう意味だ?」

「だから、人間の街……というか、人のいるところに行くのは諦めよう」

「お前……まさか『争うなんて良くないよ』とか寝言ほざく気か? その気だったら言ってくれ。殴る前にお前の評価を下げておくから」

「行く必要がそもそもないだろ。そもそも此処の人間から世界の事情以外で聞ける話があるとも思えない」

「むっ」


 まあ、確かにそれはその通りだとアイアースは思う。

 人類の敵、すなわち恐らくは世界の敵レルヴァ。そんなものにこの世界はどうやら、敗北しかけている。いや、もしかすると「敗北後」なのかもしれない。

 だというのに元の世界でのドラゴンに類する防衛機構が事態を収拾していないのだ。これの意味することは……。


「この世界にドラゴンに類するモノがいるのかは分からない。いても負けたのかもしれないし、そもそもいないのかも分からないからな」

「……だな」

「けれど、アイアースの話からすれば神はいる。なら、そっちに会う方法を試した方がいい。そうだろ?」

「それってアレか。お前が言ってた祈るとかっていう」

「神殿で神の像の前で祈る、だな。そして見た感じ、此処も廃墟だけど結構大きい町だ。それなら……あると思わないか? 神殿が、さ」

「……まあ、ある。かもな」

「だろ? 人間と無理に関わる必要はない。神に会うだけなら、別に人間は『要らない』んだからな」


 その通りだ。何を人間にこだわっていたのか、とアイアースは気付く。確かにこの世界の人間と関わる必要は一切ない。何かを得られるわけでもなく戦いになるだけなのだから、全く意味がない。

 此処にある人間の痕跡から神への手掛かりを得ればいいだけだ。


「そうだな。その通りだ。いや、これは俺様がバカだったな。うっかりこの世界の事情に首を突っ込むところだった」


 言いながら、アイアースはバリバリと頭を掻く。まさか自分よりもキコリのほうがドラゴンらしい考え方をしていたとは、中々に恥ずかしい事実だ。


(そうだな、その通りだ。俺様はこいつがこの世界の事情に首を突っ込むと無意識に考えてた。だが、そんなことは一切なかった。切り捨て……いや、諦めか? うーん、やべえな。こいつ、思考がシャルシャーン寄りだ。ま、俺様が気にすることではねえが……)


 うーん、と唸るアイアースにキコリは思わず「いや、そこまで気にすることでも……」とズレたことを言い出す。そんなキコリにアイアースは大きく溜息をつき、その首に腕をひっかけて引き寄せる。


「うわ!?」

「嫌われることに慣れてんじゃねえぞ。お前は俺様よりはよっぽど好かれるタイプだ」

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