確か魔法ってのは
考える。
逃げながらも、キコリは考える。
相手はスライム。生き物を殺す為に生まれたかのような、殺しのプロだ。
その身体は半液状……実際見た感じだと固まっていないゼリーのような、そんな印象だ。
物理攻撃はほぼ通用しない。剣で切ってもハンマーで叩いても、意味はない。
アレには核のような分かりやすい弱点なども存在しない。
命をかけて襲い掛かった程度ではどうにもならない。
木に登ったとして、木ごと溶かされる未来が見えるようだ。
「くそっ! 本当にどうにもならないじゃないか!」
「そう言ってるでしょ!?」
逃げるしかない。
手持ちの札がどれも効かないのであれば、逃げるしか手はない。
英雄門まで逃げればどうにかして貰えるかもしれない。
何も、キコリ達には何も手はないのだから。
……本当に?
頭に浮かんだその疑問が、キコリの中に残る。
本当に、何も手はないのだろうか?
物理攻撃も効かなくて、魔法でも一撃で全部吹っ飛ばさないと勝てない、そんなモンスター。
そんなものが……本当に、こんな場所までやってくるのだろうか?
だって、そんな最強のモンスター。
そんなに最強なら、場合によってはドラゴンにだって勝てるのでは?
そうではない。
そうではないから、こんな場所に来ているはずだ。
(そうだ。思考を停止するな。思い出せ、確か魔法ってのは……!)
「クーン!」
「何!?」
「アイツ、魔法なら効くんだよな!?」
「効くけど……え!? 何か手が!?」
「あるかもしれない! 無かったら……まあ、死ぬがな!」
そうだ、キコリにはまだ1つだけ手が残っている。
破壊魔法ブレイク。
キコリが覚えた唯一の魔法。ホブゴブリンにはあの程度しか効かなかったけれども。
「やってやる……どうせこのままなら追いつかれて死ぬ!」
叫び、「逃げる心」をキコリは自分の中から消し去る。
ズアッと……スライムは津波のようにその身体を広げキコリを呑みこもうと広がって。
キコリは、あえて更に踏み込んでいく。
斧は使わない。伸ばすのは、手。
スライムの身体に触れたその瞬間、ジュッと肉が溶ける嫌な音が聞こえる。
狂いそうな痛み。叫び出したいのを抑え、キコリは「必要な言葉」とイメージを紡ぎ出す。
頭を真っ白になんてするな。
明確なイメージを思い描け。
こいつから手を離すな。
口から出すのは、悲鳴なんかじゃない。
「ブレイク!」
広がり切ったスライムの半液体状の身体が震えて。
響くのはパンッという破裂音。
そうしてスライムは細かい霧のようになって広がり霧散し消えていく。
勝利を確信したキコリの後ろで……クーンの歓声が上がった。
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