僕、気付いたことがあるんだけど
英雄門を潜り、森に入る。
そしてふと、もう平原では立ち止まらなくなった自分に気付きキコリは振り返る。
「どうしたの?」
「いや、別に」
しかし、それに然程の意味もない。
それより大切なのは、この後どう動くかだ。
「調査って話だったが……どうする?」
「うーん……」
通常であれば、このまままっすぐ進む。
それが一番「間違いがない」からだ。
しかし、それでは調査の意味がない。
「とりあえず、そうだな。適当に進んで、そこから左にでも曲がってみるか?」
「そうだね。目印でもつけておけば悩まないだろうし」
「よし、それだ」
キコリを先頭に歩き出し、適当なところで木にナイフで傷をつける。
矢印の形にすることで、分かりやすくしているが……こんなものだろうかとキコリは首を傾げてしまう。
「どうだろう」
「いいんじゃないかな、分かりやすい」
「よし」
頷きあい、左へと進んでいく。
ガサガサと草を踏みながら歩き……しかし、ゴブリンの一体にも出会わない。
角兎すら襲ってこない始末だ。
「こんなにモンスターが襲ってこないんじゃ、商売あがったりだな……」
「確かにね。一体何があったらこうなるのかな」
「昨日の夜に本で調べてみたけど、あまり似た事例はないんだよな」
「似た事例って、モンスターハザード?」
「ああ」
モンスターハザード。文字通りモンスターが津波のように襲ってきたり異常に強力なモンスターに進化したりする「モンスター災害」の総称だ。
どちらもかなりの被害を出したらしいが……もしそうだとしたら、と考えると気が滅入ってしまう。
「今までもずっと『死ぬ』って思う事の連続だったけど、モンスターハザードなんか起こったら……」
「……ちょっと待って。僕、気付いたことがあるんだけど」
「なんだ? 何に気付いたんだ?」
まさか今の会話で何が起こっているのか気付いたのかとキコリは足を止めてクーンへと振り返る。
クーンは頭の回転が速い。自分には気付かない事に気付く可能性は非常に高い。
期待の目をキコリはクーンに向け……クーンは真剣な表情で口を開く。
「……キコリ。宿屋じゃなくて誰かの家に泊まってるの?」
「ん?」
「宿で本貸し出すとか有り得ないし。まさか本買って部屋に置いてるわけじゃないよね。となると……」
「……それ、今重要か?」
「全然。でも僕と会ってからのキコリの行動パターンからして冒険者ギルドの誰かかな、とは思ってる」
目茶目茶鋭い。どんな考察をしたらそこまで辿り着くのか。
キコリは思わず冷や汗を流してしまう。
「まあ、高い確率でアリアさんかなとは」
「もう行くぞ、クーン」
「あ、まさか当たった? 進んでるねえ、キコリ」
ニャハハ、と笑うクーンを黙殺し、キコリは歩いていく。
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