この場で観測できる事実
落ち着け、とサレナは自分を鼓舞する。
目の前のオークは自分のバリアを突破できていない。
なら、やることは単純だ。幸い、こちらには幾つも手がある。
「リバースプレッシャー!」
「ぐお⁉」
バリアのエネルギーを反転させ、ドドを吹き飛ばす。
だがドドの巨体は僅かに交代しただけで、すぐにメイスを構え襲い掛かってくる。
「フレイムストライク!」
「フン!」
「嘘でしょ!?」
放った火球をドドは盾を構え、そのまま突っ込んでくる。
悪魔の盾に悪魔の鎧。その魔法を弾く能力は健在で、だからこそサレナにとっては相性が最悪だ。
だが……トロールの中でも魔法に特化したサレナは、そのくらいで封殺されはしない。
「サモンゴーレム!」
自分で開発した魔法の数々は、多少魔法が効かない程度で意味が無くなるものではない。
サレナを肩に乗せ地面から盛り上がるように現れた巨大なソイルゴーレムは、ドドを思いきり蹴り飛ばす。
「ぐうっ……!」
「魔法が効かなくてもやりようはあるのよ! ゴーレム、やっちゃいなさい!」
ゴーレムのパワーはドドのパワーを大きく上回り、悪魔の鎧も物理攻撃に対しては通常の金属相当のものでしかない。
ゴーレムの連続攻撃の前にドドは追い詰められ、ついに盾を弾き飛ばされ大きく転がっていく。
衝撃で兜も何処かに転がっていったが……拾っている暇もない。
ソイルゴーレムの連撃が、あまりにも激しすぎるからだ。
「……う、ぐ……」
「今度こそトドメよ! フレイムスフィア!」
ソイルゴーレムの上から放たれたサレナの大火球がドドに命中し……その業火の中で、ドドは歯ぎしりをする。
まただ。また、役に立てていない。いつか別れるといえど、今はキコリとオルフェの仲間であるのに。その生死を確かめるどころか、僅かな時間稼ぎすらも。
此処まで、此処まで自分は弱いのか。ああ、だから別れようとしたのに。けれど、今は一緒にいる。だから、だから。
神よ、オークの神よ、モンスターの神よ。いや、人間の神でもいい。仲間を、友を救うための力を!
そんな願いは、通常であれば届かない。無数の救いを求める声の中から、たまたまドドの声のみを神々が拾い上げる理由はない。
だが、それでも。ドドの中で、何かがミシリと音をたてた。
それがドドの願いが神に届いた結果であるのかは定かではない。元よりドドにそうした素質があって、それが今この瞬間に開花したのかもしれない。
ただ結果としてこの場で観測できる事実としては。
「……なんで。そんな、なんでよ!」
筋肉を一回り肥大化させたドドが、炎を振り払いソイルゴーレムにメイスの一撃を加えていた。
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