有り得ないこと

 角ウサギを殴りゴブリンを蹴り倒し、2階のボス、マンイーターを刺し殺して。3階のゴーストたちを魔力を込めた槍であっさり引き裂いて。

 そうして登りながら、アイアースは何度目かの溜息をつく。


「あー……面倒くせえ。いつになったら着くんだ」


 何処が繋がっているか分からないので1階も2階も隅から隅まで探索したが、何処か別の場所に繋がるような道は見つかっていない。

 となれば、3階以降に道がある……ということになるわけなのだが、未だ見つかっていない。

 まさかこのまま4階、5階と登っていくのか……そんな恐ろしい想像をアイアースはしてしまうが、そこでふと「ん?」と声をあげる。

 木々の間、壁のようになっていて通れなかったその場所の一部に、道のようなものが出来ているのだ。


「おいおい、こいつぁ……」


 近づいてみると、そこにあったのは……細い、吊り橋だった。

 人間1人がようやく通れそうな細い吊り橋が、遠くて見えないような何処かに向けてかかっている。

 更には霧までかかっていて「何処」に繋がっているのかは全く分からない。

 分からないが……これが「楽園」の世界への道であることはよく分かった。

 しかしまあ、なんと頼りない吊り橋だろうか。何かあったらすぐに落ちてしまいそうな吊り橋に、アイアースは迷いなく一歩踏み出す。

 ギイ、ときしみ揺れる吊り橋をアイアースは一歩ずつ渡っていく。

 眼下に見える光景は大地でもなければ海でもなく、虚無。真っ黒な虚無が吊り橋の下には広がっており、そこに落ちた者がどうなるかはあまり考えたくもない。

 だがそれでもアイアースの足取りに迷いはなく、吊り橋をどんどん進んでいく。


『……君がキコリにそこまで入れ込んでいるとは思わなかった』

「ああ? あー……まあ、そうかもな。俺様もビックリだよ」


 暇なのかコイツと思いながらもアイアースはユグトレイルの問いに答える。まあ、実際ユグトレイルの言うことは当たり前の疑問ではあるのだろう。


「可哀想な迷い子だよ、アイツはな。とことんまで利用しようとしてるシャルシャーンの野郎をブチ殺したくて仕方がねえ」

『利用、か』

「なんだよ。シャルシャーンはそんなことしねえってか?」

『いや。するかしないかでいえばする。だがそうではない』

「はあ?」

『シャルシャーンがそれだけ『誰か』に期待するというのは有り得ないことだ。アレは完璧であるがゆえに誰にも期待しない。そんなシャルシャーンがキコリを利用するために育てているというのが、どうにもしっくりこなくてな』

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