オルフェには話せないな

「期待しない……? いや、けどアイツは……ああ、いや。言動が信用ならねえ奴だったな」


 ドンドリウスに期待してたみたいなことを言っていたような……と言いかけてアイアースはやめる。

 シャルシャーンはどうでもいい事項やどうやっても変わらない事項については言動が全く信用ならない。

 特に期待だの信用だの、その手のフォローしているつもりなのかもしれない台詞については概ね誰も信用していない。

 ドンドリウスの件もそうであったとして、何の不思議もないのだ。


「で? しっくりこなきゃどうだってんだ。何が変わる?」

『恐らくだが。キコリがドラゴンとして選ばれたのはシャルシャーンにとって計算外だったのではないだろうか?』

「……なんだそりゃ。嘘つく意味が分からねえ」

『結果は同じなのだ。シャルシャーンにとってどうでもよい、すぐ死ぬ存在だったキコリがドラゴンになった。その時点で価値が生まれ利用を決めたとしたら?』

「……」


 アイアースはキコリから聞いていた今までの旅の流れを思い出す。確か、オルフェと出会ったときには人間をもうやめかけていた、はず……だが。

 その瞬間もシャルシャーンはキコリを『見て』いたはずだ。ならば、シャルシャーンの介入のタイミングは。


「……まさか。グレートワイバーンとかいうトカゲをそそのかしたのはシャルシャーンか?」

『その辺りの事情は知らない。しかし結果的には同じということだ』

「ああ、なるほどな……合点がいった。しかし、これは……あの野郎。マジかよ……シャルシャーンじゃなかったら粛清対象じゃねえのか?」

『君がそこまで言うのも相当だが』

「妖精にワイバーンけしかけたのがアイツかもって話だ」

『やりかねんな。シャルシャーンの視点はいつも高すぎる』


 この推測はオルフェには話せないな、とアイアースは思う。知ればシャルシャーンを殺す方法を本気で模索しかねない。

 しかし、それよりもアイアースが今不思議なのは妖精好きのユグトレイルが何も言わないことだ。

 ユグトレイルであれば妖精本人たちよりもキレているはずなのだが……。だから、アイアースは聞いてみる。


「なあ、おい。お前意外に怒ってないんだな」

『ハハハ、何を言っている。シャルシャーンに会ったらどうやれば殺せるか考えているところだ』

「おー、怖……」


 これはもう放っておいた方がいいだろう。アイアースはそのまま吊り橋を渡っていき……突然、その空気が変わったことを感じる。

 それは、暖かく……そして優しい、安心感というものが押し寄せてくる、不可思議なものであった。 

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