吟遊詩人を探すんだ

 そうしてダンとゼンに案内されるまま昼からやっている酒場に行って、食事をして。

 酒樽を飲み干した2人に案内された宿屋でキコリたちは一泊することにしていた。

 ダンとゼンの定宿であるらしく、あの2人も何処かで寝ているはずだが……まあ、とにかく縁は繋がったままだ。

 この部屋も多少狭いながらも2人部屋であり、シーツもしっかりと干しているのかよい匂いがする。

 まあ、つまり……ちゃんとした宿屋、なのだが。オルフェが不満そうな表情をしているのは、それと別のところにある。


「見た? 此処の宿屋の奴の顔」

「ああ。凄い嫌そうだったな」


 ダンとゼンが直接紹介したから泊めてやった……といった風な態度が透けて見えていたが、あの調子だと今後何かしらの問題が発生してきそうではある。

 2人はバカは一部のようなことを言っていたが、ダンたちが気付かないだけで結構根深い問題の可能性もあるだろう。

 もしかするとだが、ダンたちの目の前でだけは調子を合わせていて実は……なんてことだってあるかもしれない。

 そうなると、折角繋いだ縁ではあるが問題が起きる前に情報を仕入れて「次」に向かった方がいいかもしれない。


「2人には悪いけど、早めにこの街は出よう」

「そうね。具体的にどう動くつもり?」


 言われてキコリは考える。欲しいのはアサトの情報であり、その為に吟遊詩人から情報を買う必要がある。

 吟遊詩人がいるのは広場や酒場だが……ダンたちと行った酒場には吟遊詩人がいなかった。

 他の酒場にならいるのかもしれないが、その辺りは探してみる必要がある。

 あとは、アサトは冒険者活動もしていたようなので冒険者ギルドに聞いてみるという手もあるだろう。もっとも、これに関しては教えてもらえるかどうかは分からない。


「……ひとまずは酒場を回ろう。吟遊詩人を探すんだ」

「そうね。元々そっちが目的なんだしね……見つからなかったら次の手を考えればいいわ」


 キコリとオルフェは頷きあい、開け放たれた窓の外に視線を向ける。

 すっかり夜も更けているが……ムスペリムの空には、フレインと違ってゴーストは飛んでいない。

 しかし地上では酒場の明かりが未だ消えておらず、むしろこれからが本番といった感じだ。

 吟遊詩人を探すなら、今がチャンスかもしれない。まあ、仕事中だろうから明日の約束を取り付ける……などといったことになるかもしれないが。とにかく、ここで寝ている場合ではない。


「オルフェ、早速だけど行こう。今が一番見つけやすいだろうしな」

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