そうすりゃ見えてくるものもあるでしょ

 だが、オルフェはキコリと比べると大分冷静な表情を浮かべていた。

 というよりは、悩んでいるような表情……だろうか?


「うーん……」

「何か思いついたのか、オルフェ?」

「思いついたっていうか……この町をどっかと誰かが作ったとしてよ?」

「ああ」

「そいつは『いつ』作ったのかなって」

「んん……? ……あっ」


 キコリは首を傾げて……すぐに気付く。いや、思い出す。

 ダンジョンが「ダンジョン」になったのは、つい最近の話だということを。

 迷宮化によって、全ての転移先がシャッフルされているということを。


「少なくとも、ダンジョンになる前にはもう出来ていた……ってことは」

「そうよ。作った奴、此処に居ない可能性もあるんじゃないの?」


 この「生きている町」を作ったのが何処の何者であるにせよ、状況から考えて迷宮化の前から存在していた。

 そして今まで主人らしき者が現れていない、そして略奪を許しているということは「そういう事」なのではないだろうか?

 そう考えるのが自然だ。キコリが今までその考えに到らなかったのは何故か。


「……だとすると、あの鎧の剣士は何だったんだ?」


 アレがこの生きている町の防衛機構か何かだとして、キコリだけを執拗に狙った理由の説明がつかない。

 鎧の剣士さえ出て来なければ「此処を作った者は居ない」という結論にキコリもすぐに辿り着いただろう。

 だが、鎧の剣士の存在がずっと引っかかり続けている。

 アレはずっとこの町にいて、何かの条件で起動しただけなのだろうか?

 それとも、キコリを敵視する「何か」が送り込んだのだろうか?

 もし後者なら……此処には少なくとも管理人に類する何かが居る。


(それだけじゃない。ロックゴーレムの件もだ。そんなものを細々と送り込む必要が何処にある? 警戒させるだけで利点があるとは思えない)


 目的が見えない。

 想定されるどの目的を当てはめても、しっくり来ない。

 だから、いつまでも「何故」が消えない。

 絶妙な気持ちの悪さだけが思考に残るのだ。


「確かに居ないと考えた方が自然だ。でもおかしい点が浮き彫りになる。逆でも同じだ。訳が分からない」

「そういう時はさあ、とりあえず仮決定しとけばいいじゃない」

「仮決定って……そういうものじゃないだろ」

「そういうものよ。とりあえず仮定しといて、それを前提に行動する。そうすりゃ見えてくるものもあるでしょ」


 どうせ悩んだって答えなんか出ないんだから、とオルフェは言う。

 まあ、その通りではあるのだが……それを言ったら終わりという気もする。

 する、のだが。


「……そうだな。これ以上悩んでも答えは出そうにないし」

「でしょ?」


 とりあえず、此処を作った何者かは「居ない」と仮定する。

 そうして探索する過程できっと、見えてくるものもあるだろう。

 キコリは、そう思う事にした。

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