ただの認識の差
そう、たとえば可能性が高いのは……「新しいものが出来ている」、もしくは「無くなっても補充される」などだろうか。
だが、それに気付かないということなどあるのだろうか?
此処に挑む全員が金に目が眩み過ぎてそれに気付いていないと仮定して、買い取っている商店などもあるだろうに、其処すらも気付いていない?
「まだ俺の勝手な想像でしかない。だが、ちょっと確かめてみる必要はありそうだな」
「確かめるって。どうすんのよ」
「乗り込む」
キコリはそう告げると、そのまま近くの家の門を……開けずに、僅かに一歩下がる。
「ミョルニル」
唱えて斧が帯電した瞬間、門扉がガタガタと動き出して。
投げた斧が門を打ち砕き黒焦げにする。
「うげっ、生きてる門かあ……よく気付いたわね」
「オルフェは気付かなかったのか?」
「言われてみれば……」
オルフェは不可解そうに周囲を見回す。
こういうのはオルフェの方が鋭そうなのに、言われるまで気付かなかった。
しかしまあ、そういうこともあるだろうとキコリは思う。
「むしろキコリはどうやって気付いたのよ」
「石でも動くのに門が動かないはずもないと思った」
「……ただの勘じゃないの」
「そうとも言う」
「そうとしか言わないでしょ」
オルフェは溜息をつきつつも「まあ、その通りね」と続ける。
「けど、そうなると……家も生きてるんじゃないの?」
「俺もそう思う」
「ええ……そんなのに乗り込むの?」
「……やっぱり拙いか?」
「どうかしら。家そのものが生きてるなら胃袋に飛び込むようなものだとは思うけど……あっ」
そこでオルフェは気付いたように声をあげる。
「え、そういうこと? マジで?」
「なんだよ。何か気付いたのか?」
「いや、ここまで材料揃えば気付きなさいよ。つまりさっきの皿……アレ、家『が』作ってるってことじゃないの?」
「……出来るのか? そんなこと」
「斧とか鎧生成する奴が何言ってんのよ」
チッと舌打ちするオルフェにキコリは「あー」と頷く。
確かにキコリにも出来る。
ならば「生きている家」に出来ないはずもない。
「……てことは、ジオフェルドさん辺りはその辺を分かってる可能性は高いな」
「可能性はあるわね」
「分かってみると大したカラクリでもなかったか」
「……そうね」
一拍置いたオルフェにキコリは振り向くが、オルフェは「それで?」と声をかけてくる。
「その家、入るの?」
「いや、入らない」
キコリは軽く肩をすくめると、その場を離れる。
「ロックゴーレムの発生源を探る方が先だしな」
「そ。じゃあ行きましょ」
「ああ」
歩くキコリの後を追いながら、オルフェは思う。
(大したカラクリじゃない、か。でもそれ、ドラゴン基準よ? キコリ)
吞み込んだ言葉。
それはわざわざ正す必要のない、「ただの認識の差」で済む程度の話だった。
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