今から教えてあげます
夕方を過ぎ、夜が近づこうかというその時間。
アリアはサクサクと森を進んでいく。
「あ、アリアさん!」
「なんです?」
「そんなに奥に行ったら危ないんじゃ」
「なるほど」
アリアはそこで止まると、キコリに振り返る。
「キコリ。待ち伏せされたって言ってましたよね?」
「はい」
「ゴブリンはね、愚かだけど馬鹿じゃないんですよ」
「同じ意味じゃ」
「ないです」
断言すると、アリアは「あのですね」と言う。
「汚染地域の奥に進めば進むほど強いモンスターが出る。これは知ってますね?」
「はい」
「ではモンスターの立場で考えてみましょう。向こうからしてみれば、『奥』に進めば進むほど敵が弱くなる。強いモンスターにとっては誤差でも、弱いモンスターにしてみれば値千金の情報です」
「それ、は」
「たとえば偶然生き残ったゴブリンが、その情報を他に共有したら? ゴブリンはどういう風に動きますか?」
考えるまでもない。それは。
「弱い冒険者のいる英雄門の近くに来ます」
「そうですね。英雄門から先のモンスターの分布っていうのは、そういう風に出来上がります。そして……より確実に狩る為に、策を弄するようになってくる」
それが、キコリの出会ったゴブリンだということだ。
弱いから隙を見せれば襲ってくるだろうと、そう判断して罠を張っていた。
その結果、キコリは見事それに引っかかったというわけだ。
「これを避ける方法が1つあります」
「ど、どんな方法なんですか?」
「今から教えてあげます」
そう言ってアリアは息を吸い込むと、凄まじい大声をあげる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
大気を震わすような叫び声。思わず耳を塞ぎそうになる中、アリアは視線をぐるん、と森の向こうへと向ける。
ドウッ、と。弾丸のような音を立てて飛んでくる角兎を、アリアのバトルアクスが迎え撃ち両断する。
そして……2体のゴブリンが森の向こうから茂みをかき分け走ってくる。
そのゴブリンはアリアを見るとビクッとしたように身を翻そうとして。
一体が、飛んでくるバトルアクスで頭をかち割られる。
「ギッ……!」
「死ね」
先程の角兎を弾丸とするなら、アリアは砲弾。金属鎧を着たアリアのショルダータックルはゴブリンを木に叩きつけ、跳ね返って戻ってくるゴブリンをアリアは丸盾で乱打する。
的確に顔面を打つその打撃はゴブリンをあっというまに絶命させ……それでは足りないとばかりに倒れるゴブリンをその途中で丸盾でぶん殴り、地面に沈める。
「ふー……これがウォークライ。敵を呼び寄せたり、怯ませたりする技術です。これやって『気付かない』モンスターはあまり居ませんから、少なくとも待ち伏せは減りますよ」
別の問題が起きたりもしますけどね、と笑うアリアに……キコリは「勉強になります」と。
そう言うしかなかった。
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