ようやく隙が見えた

 ゴブリンジェネラルの足は、見た目には何の被害もない。

 恐らくは魔法防御がチャージをして尚、上回っているのだろう。

 だが、少しでも効くなら問題ない。

 ゴブリンジェネラルは膝をつき、苦痛の声をあげている。


「ハ、ハハ。ようやく隙が見えた」

「ギ、ギイイイイ!」

 

 立ち上がるキコリをゴブリンジェネラルは威嚇する。

 英雄門を攻めていたゴブリンたちが異変に気付き、戻ってこようとしている。

 だから、キコリはこのチャンスを逃せない。

 鎧の魔石に残った魔力、全てをこの一撃に叩き込む。


「チャージ」


 魔力が身体に流れ込む。暴力的な衝動が、更に高まって。

「壊したい」から「どうすれば壊せるか」に思考が切り替わっていく。

 それ以外の全てが、見えなくなっていく。


「ミョルニル」


 マジックアクスに稲妻の力が宿る。

 ドガン、と。残る全ての魔力をチャージしたマジックアクスが、眩い程の稲妻を宿す。

 スパークするその輝きは、まるで破壊の象徴であるかのようだ。

 斧を、投擲する。

 当然のようにゴブリンジェネラルは、それを盾で防いだ。


「……ギ?」


 そう、防いだ。

 魔力など微塵も宿っていない、ただの斧を。

 盾で塞がれたその視界、生まれた隙。

 キコリは走る。たいした距離ではない。

 それは、ほぼ一瞬。

 ゴブリンジェネラルが気付いたその時には、もう振りかぶっている。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 投擲する。

 稲妻宿すマジックアクスが、ゴブリンジェネラルの頭部に命中する。

 チャージした全ての魔力を、キコリ自身の魔力を全て載せて発動したミョルニル。

 それは、ゴブリンジェネラルの兜を砕き突き刺さって。その傷口に、その身体に。余すことなく稲妻を流し込み、その命を刈り取った。

 響いたのはドゴン、という音。

 全ての注目が、ゴブリンジェネラルに集まる。

 焦げたゴブリンジェネラルが、ゆっくりとその巨体を倒して。

 地面に地響きをたてながら倒れたその瞬間、キコリの手にマジックアクスが戻る。

 ただそれだけで、その場の誰もが何が起こったかを理解した。

 マジックアクスを構え、空いた手に背負っていた丸盾を持ったその姿。

 キコリに迫ろうとして一部始終を見ていたゴブリンがヒッと悲鳴をあげる。


「ヒッ……ヒイギアアアアア!」


 その悲鳴は、伝染する。

 元よりゴブリンジェネラルに統率されていただけに、統率者が居なくなればその連携などすぐに消えてなくなる。

 英雄門からの攻撃も激しくなり、リザードライダーもマギライダーも混乱の中アッサリと劣勢に陥って。

 そして、門が開く。僅かに残っていた冒険者や衛兵隊の出撃が始まり……この防衛戦もまた、人類側の勝利に終わる。

 ゴブリンジェネラルを討ち取った、1人の功労者を衛兵たちの記憶に刻んで。

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