不可思議な言葉
ドラゴンロアは、トロールたちの動きを一瞬ではあるが完全に止めた。
キコリが普段使わないようにしている魔力の過度なチャージを連続で行っているが故、その身体の強度は今、ドラゴンとして、そう……ドラゴン「死王のキコリ」としての片鱗を感じさせる程度に上がっている。
故にその鎧は硬く、その斧は鋭い。その肉体もまた……人が死ぬ程度のダメージでは滅びない。
キコリは地面を蹴って、トロールたちを刻んでいく。今ならば容易いことだ。
たとえばトロールの肉体がドラゴンの爪よりも硬いというのであれば生き残る目もあるだろう。
だが、そうではない。だからトロールは死ぬしかない。
「ガアアアアアアアアアア!」
「グヒエアアアアアア⁉」
キコリに脅え逃げるトロールたちの姿も、やがて物言わぬ死骸となって。
目に見える範囲のトロールを殲滅したキコリは、荒い息を吐きながら過剰チャージを止める。
瞬間、その代償がキコリを蝕む。人間程度の肉体を維持しながら、ドラゴンの如き魔力を運用した代償は当然、その肉体の崩壊だ。
運用可能な肉体となる適応を拒むキコリには当然の代償で、血を吐きながらキコリはその場に膝をつく。
「とんでもないのがいるのね。最善の手を打ったはずなのに、力尽くで突破するなんて……ドラゴン、超怖いわ」
聞こえてくるのは、恐らくは共通語と思わしき声。いや、しかし……何かがおかしい。
なんだか声に微妙な違和感が……まるで一端「何か」を通しているような、そんなおかしさがある。
その声の主はキコリから少し離れた場所に立っていて。その姿を見て、キコリは疑問符を浮かべる。何故なら、その姿は……あまりにもトロールとかけ離れていたのだ。
身長は、他のトロールよりも随分と低い。むしろ10代の少女のそれに近い。
その姿も、トロールとは全く違う人間寄りのものだ。黒い髪を揺らすその少女の着ている服は白いブラウスと紺色のスカート。不可思議な衣装だが……なんとなく似合っているような気もする。手に持つ杖もまた、金属製の細かい細工のされたものだ。
「……誰だ、お前。トロールじゃないだろ」
「いいえ、トロールよ。進化しただけ。だって、あの姿……耐えられないんだもの」
ならば、そうなのだろうかとキコリは思う。目の前にいる、この少女は。
「こんにちは、ドラゴン。私はサレナ。トロールハイプリエステスのサレナ。貴方風に言うなら、妖精女王の候補でもあるわね」
そう自己紹介すると、サレナは微笑む。それはひどく邪悪な微笑みで……しかし、その微笑みはすぐに消える。
「もしかしたら、と思ったんだけど。なんだか違うみたいだし……もういいかな」
「何を、言って」
「動けないでしょ? そういう風になるように頑張ったから。私はね、自分の未来は自分で掴み取るの」
サレナがスカートの裾を揺らし、杖を掲げる。
「シャイニングレイ」
天から降り注ぐ光の雨がキコリたちを貫いて。自分以外の誰も動かなくなったその場を確認して、サレナは笑顔でその場を立ち去って行く。
「ああ、よかったぁ。ちゃんと一つも手順を間違えず出来た! これで安心だね!」
そんな、不可思議な言葉を残して。
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