お前、頭いいんだな
「それで、キコリ?」
「はい、なんでしょう」
「今日も家、泊まります?」
「え……と。有難いですけど、普通にご迷惑では」
「そんなことないですよ。場所は分かってますよね?」
「はい。え、でも」
「じゃあ、夜には帰ってきてくださいねー」
グイと押し出されキコリは階段を上るが……「本当にいいのかな」と呟いてしまう。
好意は嬉しいが、戸惑ってしまうのだ。何故そんなに気に入られているのか、全く分からない。
分からないが……嬉しい、と思ってしまう。それでも「悪魔憑き」と蔑まれた記憶が蘇ってしまう。
あまり近づきすぎて、そう言われたら。そう思うと、身が竦んでしまう。
「……やめよう。これ以上は、考えないようにしないと」
階段を上がり切り、壁に貼ってある依頼を見る。
薬草採取、角兎の肉の入手、ビッグホーンの肉の入手……やけに食べ物関連が多い気がする。
「モンスターの肉って、食べられるのか……?」
「ん? おお、死にかけ坊主じゃねえか。今日は死にかけてねえな」
キコリの呟きを聞きつけたのか、隣で依頼を見ていた男がキコリに話しかけてくる。
「死にかけ坊主って……」
「ハハハ、いつ死ぬかって賭けしてた連中もいたぜ?」
なんともひどい話だが、死にかけていたのも事実なので何も言えずにキコリは黙り込む。
「ま、そう怒るなよ」
「怒ってません」
「ハハハ! で、モンスターの肉は食えるのかって? そのままじゃ食えねえよ」
「じゃあ、どうして依頼に?」
「そりゃまあ……そういや、なんで汚染地域って呼ばれてるかは知ってるよな?」
「いえ」
「おお、そっからか。まあ、なんだ。魔力汚染現象ってのがあってな。高濃度の魔力が影響か何かして、人間の住めない環境になってる……らしい。俺も詳しくは知らん」
「魔力が濃すぎて人間に悪影響、ってことですか」
「たぶんな。で、モンスターってのは『汚染適応体』とも呼ばれててな。ま、その肉を食うと人間は身体壊したりするってわけだ」
その理屈で言うと、モンスターとはつまり魔力が高い生き物ではないなのだろうか、とキコリは思う。
あるいは、魔力に影響されないというだけなのかもしれない。むしろこっちの可能性の方が高いだろうか?
汚染地域に薬草が生えやすいというのも、高濃度の魔力のせいなのだろう。
「……なんか分かった気がします」
「お? そうか。お前、頭いいんだな」
「いや、そんなことは」
「俺ぁ5回聞いてもよく理解できなかったぜ。ハハッ」
そう笑うと、男はキコリの頭をガシガシと撫でて去っていく。
その姿を見送り、キコリは依頼に視線を戻す。
角兎の肉、1体につき500イエン。
「……もったいなかったな。俺、いくら損したんだろう」
計算しそうになって、キコリは止めた。
悲しくなるだけだと気付いたからだ。
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