そういうもの

「ギッ⁉」

「レルヴァアアアア!」


 驚愕に目を見開いたレルヴァに、キコリはそのまま掴みかかる。首元に手を回し、自分の身体を宙に浮くレルヴァ任せにキコリは呼びかける。


「俺に従え……! 俺は、ゼルベクトの転生体だ……!」

「ギ、ギギ……」


 睨みつける。キコリは自分こそが破壊神ゼルベクトだと、そう心の底から思い込むようにしながらレルヴァへと呼びかける。

 言葉が通じないのであればそんなもの、届くはずもない。

 ……だが、ドラゴンロアのように強い感情を伴うドラゴンの声には魔力が乗ることがあるせいだろうか。レルヴァはピクリと反応したかのように、キコリをじっと見つめていた。

 レルヴァは、キコリを振り落とさない。先程のブレイクの直後からだろうか……明らかに、動きが鈍い。レルヴァはキコリに掴まれたまま、ゆっくりと降下していく。

 そして、キコリの足が地面についたその時。何もしないレルヴァからキコリがゆっくりと離れると、レルヴァはキコリをじっと見つめるようにその場に佇んでいた。


「ギ、ギギ……」

「……なんだこいつ。まさかマジで説得できたってのか?」

「分からない。でも……」


 アイアースとキコリが見守る中、全く視線を外さなかったレルヴァが、ここで初めて意味のある単語を口にした。


「ゼル、ベクト。ゼルベクト……!」

「通じた……!」

「通じちまったかあ……ま、あとは意思疎通がもっと円滑なら完璧なんだが」


 そう、アイアースの言う通り意思疎通が出来なければ何の意味もない。別にこの世界でレルヴァを集めて人間と一戦やらかそうというわけではないのだ。

 だから、このレルヴァとなんとしても意思疎通したいのだが……。


「ゼルベクト……!」


 何やら頭を下げて猫か何かのようにキコリに頭をぶつけてくるレルヴァに、キコリは困ったように視線を向ける。


「な、なんだ? 何がしたいんだ?」

「ゼルベクト……!」

「ア、アイアース! これ、何だと思う⁉」

「俺様が知るわけねえだろうがよ」

「だよな!」

「ゼルベクト……!」


 キコリに頭突きをしていたレルヴァは、やがて諦めるように頭突きをやめると……キコリの兜を器用に外してしまう。


「あっ、こら! 何を!」

「ゼルベクト……」


 兜を抱えたまま同じことを言い続けるレルヴァだが、そんなレルヴァを見て「まさか」と思う。


「お前、まさか……自分が兜になるとか言い出す気じゃ。俺が求めてるのはそういう……いや、待てよ」

 

 ドラゴンになったキコリが使っていた斧や兜、鎧は全て魔力で作り出した竜鱗や竜爪だった。

 ……ならば、魔力で出来た身体を持つレルヴァとはもしかして。破壊神ゼルベクトの作り出す「そういうもの」ではないのだろうか?

 だとすると、先程の行動はまさか。


(ゼルベクトの中に、戻ろうとした……?)


 だとすると、あの時頭突きをしていたのは「そういう意味」なのだろう。しかし、レルヴァは出来なかった。当然だろう。キコリはゼルベクトの生まれ変わりかもしれないが「そのもの」ではないのだ。


「すまない。俺はゼルベクトの生まれ変わりらしいけど、どうすればそれが出来るか分からないんだ」

「ゼルベクト……」

「だから、すまない。そういうのに詳しくて、話が出来そうな……そんな奴に心当たりはない

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