察してくれると嬉しい
「これって……」
「儂の家紋のペンダントだ。間違いなく役に立つだろう」
確かに、ギザラム防衛伯のペンダントであれば効果は抜群だろう。
他国の権力云々という難癖は完全に封じられるし、これに文句をつければどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「ありがとうございます。強力なお守りになると思います」
「うむ。で、本題だがな。儂から冒険者ギルドを通し、キコリ宛に指名依頼を出す」
「それをクリアして実績を積む……ってことですよね。でもそういうのは良いんですか?」
ある意味で1つの国の意思の関わる事案ではないのか。
キコリはそう心配してしまうが、ギザラム防衛伯はそれを笑い飛ばす。
「何、問題ない。相応に難しい仕事を投げるつもりだ。何しろこのイルヘイルは今、難しい案件に事欠かん。儂が直接出ていることからも察して貰えると思うがな」
「あの、防衛伯閣下」
「何かね?」
「この国の冒険者も結構いると思うのですが……それでも足りない程なんですか?」
確かにセイムズ防衛伯から冒険者の損耗が激しいとは聞いていた。
だが、ギザラム防衛伯が出なければいけない程なのか。
キコリの当然とも言える疑問に、ギザラム防衛伯は頷く。
「そういえば君は、この国の英雄門はまだ見ていないんだったな」
「え? はい」
「行けばすぐに分かる。それで察してくれると嬉しい」
「……分かりました」
「うむ」
キコリと防衛伯が頷きあうが……納得がいっていないのがオルフェだ。
オルフェはキコリの頭の上に乗ると、もう我慢できないといった様子で口を開く。
「あのさー。そもそも、なんで人間同士でこんなくだらない真似やってんの? 馬鹿なの? 滅びたいの?」
「君の言う通りだ。普人と獣人に限らず、各国家間で根深い問題はある。あるが……人類の危機の前に結束すべきという現実すら分からん者も多いのだ」
「死ねばいいのに」
「儂もそう思う」
「で? 何が原因なのよ」
「くだらんことだよ。千年以上前の種族間戦争をまだ引きずっている。エルフですら世代が変わる時を過ぎてもなお、諍いを捨てられんのだ」
「バカね」
「うむ」
分かりあっているギザラム防衛伯とオルフェだが……そういう事情を今も引きずっているのであれば、本当に根深いのだろうとキコリは思う。
少なくとも、それを語り継ぎ大衆に教えているか、理由は分からずともいがみ合うような何かがあるのだから。
「それとキコリ」
「はい」
「今日は儂の屋敷に泊まっていきたまえ。竜神官への連絡もしておきたいからな」
「え、ですが。そこまでしていただくわけには……」
「する必要がある。君……今日の騒動を受けて尚、普通に宿屋に泊まりたいかね」
そう言われてしまうと……キコリとしては「お世話になります」という他なかった。
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