俺も……大丈夫

「まあ、いいじゃない。スライム倒したなんて自慢話になるよ?」

「そうだ、それだ。なんであんな場所にスライムが居たんだ?」

「え?」

「どう考えても、あんな場所に居ていい強さじゃないだろ」

「……まあ、ね」


 スライムを撃破したという高揚感から覚めたのか、クーンも真面目な表情になる。


「やっぱり、何か起こってるんじゃないか? あんなのが此処まで来るような、そんな何かが」

「……」


 キコリの言葉にクーンは黙り込んでしまうが……もしそうだとすると、きっとロクでもないことが起こっているだろうと……キコリはそんなことを思う。

 本来居るべき弱いモンスターが姿を消し、本来居ないような強いモンスターが姿を見せている。

 それはどう考えてもおかしいことだ。

 今まで法則のように語られていたことが突然変わるのは、何かの異常の表れの可能性が非常に高い。

 だけど、それが分かったとしてどうなるというのか。

 キコリは過去に現れたとかいう「天才」どもとは違うのだ。


「もしかすると、の話になるんだけど……」

「心当たりがあるのか?」

「奥の方で、異常進化体が出たのかもしれない」

「異常進化体? それって、たまに出るっていう」


 異常進化体。通常のモンスターよりも格段に強く、しかし同じ種族のはずの仲間すら攻撃するという、制御不能のモンスター。

 その実力はとんでもなく高く、オークの異常進化体が出た時には相当数の犠牲者が出たという話が本に載っていたのをキコリは覚えている。


「異常進化体、か……そんなのに会ったら、今度こそ死ぬな」

「まあね。でも、調査隊が出てるなら詳しい話もその内出ると思うよ」


 案外、もう退治してるかもしれないねとクーンは笑う。

 まあ、クーンの言う通りに調査隊が出ているなら、キコリよりもよほどベテランで強い冒険者だろう。

 案外明日には、その異常進化体を討伐したとかいう話を聞けるかもしれない。


「しかし、そうだとすると……それまで狩りは出来ないかもしれないな」

「うん。今日みたいにスライムが出たら、それだけでね……」

「もう1体来るだけで終わりだしな」


 クーンには対抗手段はないというし、キコリもブレイク一発で魔力切れだ。


「僕はお金に余裕あるけど、キコリは?」

「ん、まあ……」


 アリアの家に泊まっている限り、宿代も飯代も浮く。

 しかもアリアはお金を渡しても受け取らないのだ。

 そんなはした金要りません、それより明日もちゃんと帰ってくるんですよ……と言われてしまえば、キコリには「はい」と答える以外の選択肢は残っていない。


「俺も……大丈夫」

「そっか。なら明日冒険者ギルドでもっと詳しい話を聞いてみよう」

「……だな」


 しかし、クーンにそんな事はとてもではないが言えず。

 キコリは、なんとも微妙な気持ちでアリアの家へと帰っていく。

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