本当にお勧めなんですよ
「まあ、あの盾が嫌なら同じ4000イエンでカイトシールドもありますよ。木の盾に鉄貼った奴ですけどね」
職員の視線の先にある盾の近くにキコリは移動する。
カイトシールド……つまり凧のような形の盾だが、大きさとしてはかなり大きい。
裏返すと木製なのが分かるが、表面を叩くと薄く金属が貼ってあるのが分かる。
確かにこれなら、防御は楽そうだ。
「買います? それ」
「うーん……」
防御は確かに楽そうだ。しかし、これを持って戦っている姿が浮かばない。
どう考えても盾が邪魔になるのではないだろうか?
「なんか、しっくりこないですね」
「でしょうね。貴方の武器、その斧でしょう? ド近接じゃないですか。普通の盾なんか邪魔ですよ、邪魔。もうちょっと予算があるなら良い斧勧めますけど、さっき聞いた予算なら断然さっきの盾ですよ」
「鎧とかじゃないんですね」
「鎧でもいいですけど。サイズ調整が必要になるでしょうから追加料金かかりますよ?」
「追加料金……」
「もっと言うなら、鎧に関しては妥協せず、しっかり良いのを選んだ方がいいです。鎧があるっていうのは自然と慢心に繋がりますからねー。鎧を過信して死ぬってのはよく聞く話です」
「でも、ないよりはマシですよね?」
「その通りです」
頷く職員に、キコリは考える。今の予算で何を買うべきか。それとも買わないべきか。
今日の戦いだけでも何度も死にかけている。
だから何らかの防具は欲しいところだが……。
考えて、考えて。キコリは、最初に勧められた丸盾を手に取る。
「……これください」
「はい、毎度。売れないとは言いましたけど、これ本当にお勧めなんですよ?」
「使いこなせるように頑張ってみます」
「払った金以上になるよう使い潰してください」
そう言って微笑む職員から盾を受け取り、キコリは宿屋に向かう。
一晩1000イエンのその宿は、予想通りに大部屋での雑魚寝で……キコリは、斧と丸盾を抱いて部屋の隅で寝る。
「今日は……疲れたな……」
結局食事をとっていないが、もう疲れて何も食べる気がない。
そのまま寝そうになって……少し考えて、起きる。
このまま寝てしまっては、せっかくの丸盾を盗まれても気づかない。
追剥ぎが出るような場所で、一泊1000イエンの安宿の民度に期待できるはずもない。
荷物の中から紐を取り出すと、荷物袋と斧、そして丸盾に結び付け、自分の腕にしっかりと紐を縛り付ける。
その上で再度寝て……今度こそ夢の世界へと旅立っていく。
朝起きた時、そこかしこで荷物を盗られたといったような騒ぎが起こっているのを聞いて、キコリは「やっぱりな」と呟く。
紐でしっかりと自分に結び付けたキコリの荷物は盗まれてはいなかったが……早くこんな宿は脱出しようと。キコリはそう決心するのだった。
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