お前たちなら歓迎しよう
「願い? 俺たちに?」
『そうだ。我が願いを叶えてくれるのであれば、報酬も出そう』
言われてキコリとオルフェは顔を見合わせる。
どんな頼みをする気かは分からないが、ドラゴンであるユグトレイルがその気になれば解決できないことはないと思うのだが……一体何を言われるのか。そう警戒してしまったのだ。
「えーっと……正直、内容による、かな。貴方が解決できないことを俺たちが解決できるとは、あまり思えない」
『難しい話ではない。妖精女王と妖精たちを探してほしいのだ。私は彼女たちの身を案じている』
「妖精女王……」
「知ってるわ。あたしたち妖精の上位種よ。でも、此処にいないってのは」
『彼女たちは遠征に向かい、その後『迷宮化』が発生した。彼女たちを探したいのは山々だが、私は此処で彼女たちの帰りを待たねばならず、偵察に出したトレントたちは未だ帰らない』
言われてキコリは「まあ、そうだろうな……」と思う。トレントが何処に向かったかは知らないが、モンスターたちは決して共闘関係というわけではない。
トレントが歩いていれば攻撃するモンスターだって当然いるだろう。戻れないのは単に「見つけていないから」とは限らないのだ。
「……ちなみにそれがオルフェたちってことは」
キコリが聞けばオルフェは「んなわけないでしょ」と否定する。まあ、そんな簡単な話でもないだろう。
「俺たちの用事のついででいいなら、受けても構わない。ドラゴンを探す旅に出ようと思っていたところなんだ」
『そうか、有難い』
「でも期待はしないでくれ。万が一会ったとしても説得できるかどうかも分からない」
『それに関しては問題はないだろう。報酬というわけではないが、役立つものを贈ろう」
ユグトレイルの言葉と同時に、キコリとオルフェを緑色の光が貫く。
それは2人の中に入り込み、広がっていく。
「な、なんだ!?」
「体の中に、何かが……!」
『心配はいらない。それは私の加護とでも呼ぶべきもの。それさえあれば、同様に私の加護を受ける者が分かる。少なくとも争いにはならないはずだ』
加護。なるほど、ユグトレイルの言う通りであれば加護……というよりは身分証のようにも思えるが、確かに役に立つだろうとキコリは思う。
『お前たちに役立つ武具を創る力もある。まあ、あまり役には立つまいが……必要な時には、自ずと使い方を悟るだろう』
要はキコリの斧や鎧のようなものなのだろう。キコリにしてみれば自分の「爪」や「鱗」であるソレの方が信用度は高いが……ユグトレイルの加護に紐づいたものであれば、人間が作ったものよりは性能が良いのは間違いない。
「ああ、ありがとう。見つけると約束はできないが、会えたら必ず貴方が心配してることを伝える」
『それでいい』
ユグトレイルはそう言った後「そういえば」と続ける。
『ドラゴンを探すと言ったな』
「ああ」
『ならば海嘯のアイアースには気をつけよ。お前を見てどういう反応をするか、想像がつかない』
まあ、元々話は通じないが……と続けるユグトレイルにキコリは頷く。
「忠告有難う。会うとしても遠くから見るくらいにしておくよ」
『会わないのが一番ではある』
「そこまで言うなら、そうなんだろうな……分かった。俺たちが会わないように祈ってほしい」
『もう行くか』
「ああ、早くこれを飲ませてあげたい」
キコリが胸元に入れた世界樹の葉に触れれば、ユグトレイルからは優しげな波動が伝わってくる。
『息災でな。また来るといい。お前たちなら歓迎しよう』
そうしてキコリとオルフェはユグトレイルに手を振り、ニールゲンへと帰還する。
加護の影響か、その道中……トレントは、一切攻撃を仕掛けてくることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます