それでも、ありがとう

 目を覚ます。どうやら意識を失っていたらしいと、起き上がったキコリは気付く。

 隣では浮遊しているオルフェが目を覚ましており、キコリをじっと見ていた。


「おはよう、オルフェ」


 そんなキコリの挨拶には答えず、オルフェは人間サイズに変化してキコリの頬にぺちぺちと触れる。


「……うん」

「な、なんだよ」

「なんかサイズ感がね。まあ、『こっち』がいつも通りなのよね」


 元のサイズに戻り「うんうん」と頷くオルフェにキコリは軽く首を傾げて、「どっちでもオルフェじゃないか」と返す。そんなキコリを、オルフェは何とも言えない表情で見ながら肩をすくめてしまう。

 キコリがそんなオルフェに何かを言う前に、ユグトレイルからの声が響く。


『無事に戻ったようだな』

「ああ、戻ったよ。合格か?」

『合否を論ずるのであれば是だ。期待以上のものを見せてもらった』

「やっぱずっと見てたか。悪趣味よね」

『そう言うなオルフェよ。私としては妖精たるお前とキコリの関係が心配でもあったのだ」

「悪趣味」

『怒るな。困ってしまう』


 キコリはオルフェとユグトレイルのやり取りを見ながら「そういえば」と思う。


「オルフェは、ユグトレイルなら平気なんだな」

「そうなのよね。なんでかしら……」

『私が妖精と共にあるモノであるが故だ。私は妖精を守護し、私の魔力は妖精を威圧する事は無い』


 そんな解説にキコリとオルフェが頷いていると、ユグトレイルは「さて」と思念を送ってくる。


『約束だ。私の葉を授けよう。その人間に砕いて飲ませよ』


 キコリの手にひらりと舞い降りる小さな葉は強い魔力を秘めうっすらと光っており……キコリは「ありがとう」と素直な礼を言う。


『約束を守ったに過ぎない』

「ああ。それでも、ありがとう。これで俺は、やっと恩に報いることが出来る」


 キコリの再度の礼に、ユグトレイルは無言。しかし、少しの静寂の後に……ユグトレイルからの思念が届く。


『キコリ。お前はドラゴンとしては非常に異質に見える。だが、ドラゴンである以上は何処かに曲がらぬエゴがある。それが何処にあるか、この逢瀬では判断するには至らなかったが……少なくとも私の知るドラゴンの中では格段に話が通じる方だ』

「……ちなみに一番話が通じるのは?」

『「不在のシャルシャーン」だろうな。一番話が通じる。通じたからとて、それが益になるとは限らないが』


 それは一番厄介なタイプではなかろうかとキコリは思うが、あえて言わない。

 あとキコリは会ったこともないシャルシャーンよりはヴォルカニオン推しである。


『そんなお前達に1つ、願いがある』

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