相談にのるのは神官の務めです故に

 初老の神官の男イドレッド。

 記憶にあるその背中を見つけて、キコリは声をかける。


「イドレッドさん!」

「ん? んん……おお! 確か貴方はあの時の!」


 振り返ったイドレッドはキコリを見ると凄い速度で一瞬にして距離を詰めてくる。

 その瞳は妙にキラキラしていて、以前「素晴らしい」だとかなんとかと言われたことを思い出す。


「聞きましたよ、最近流行の歌を! いやあ、素晴らしい! 貴方は普人の誇りでいらっしゃる!」

「は、はは……ありがとうございます」


 とっくに普人はやめたとも言えず、キコリは曖昧に笑う。

 まあ、大神エルヴァンテはドラゴンのキコリも許容してくれたので、神の視点から言えば些細な問題だろう。たぶん。


「そちらが噂の妖精……ですか。初めまして妖精殿、私は神官のイドレッドです」

「オルフェよ。あたしはキコリの相棒ではあるけど、他の連中と仲良くする気はないわよ」

「ええ、ええ。構いませんとも。それでキコリ殿? 今日は当神殿にどのようなご用でしょうか?」


 ニコニコと微笑むイドレッドに、キコリは「ちょっとご相談がありまして」と切り出す。

 イドレッドの声がデカいせいで絶妙に注目されているし、そんな中で未知の言語がどうのという話をするわけにもいかない。


「ふむ……ええ、では中にご案内しましょう。お茶くらいなら出せますので」

「助かります」

「いいえ。相談にのるのは神官の務めです故に」


 解決できるとは限りませんが、と笑うイドレッドにキコリは苦笑しオルフェはウザそうな顔をするが……そうして案内されたのは、一般の人間は入れないであろう神殿の奥であった。

 見張りが立っているその場所を抜け、階段を登って……キコリたちは、休憩所のようなスペースに辿り着いた。

 恐らくは神官の休憩所なのだろう。椅子や机の他に調理台などの台所機能や本棚まで置いてあるのが見える。

 此処は前回もキコリが連れてこられた場所だが、忙しいのか前回に比べると少し物が乱雑に置かれているのが分かる。

 ソファの上に毛布が畳まれて置いてあるのは……まあ、たぶん見なかったことにしたほうがいいのだろうとキコリは視線を逸らす。


「さあ、座ってください」


 そう勧められた椅子に座ると、イドレッドも真向かいに座りニコリと笑う。


「それで……ご相談というのは何でしょうか?」

「はい。実は英雄門の向こうで知らない言語で書かれたものを見つけまして。神殿であれば何か分かるかと思って持って来たんです」

「ほう、それは興味深い! 拝見しても?」


 キコリは荷物袋からノートを取りだし、机に置く。

 それを見たイドレッドは……驚いたように目を見開いた。

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