色々試してみるしかないな

「ヒール!」


 オルフェのヒールがキコリを包み、キコリは瞬間的に走る。

 こいつを殺す。その意思を込めて、叫ぼうとして。

 眼前のイエティが、足元の雪を思いきり蹴り飛ばす。


「うっ!?」


 目潰し。そう分かっていても、防ぐ手段はキコリにはない。

 だから、構うものかとキコリは突っ走る。

 其処に居るのは分かっている。だから、キコリは自分を襲う雪に突っ込んで。

 ドゴン、と。鎧に硬い何かが命中して吹っ飛ばされる。

 まるで砲撃でも受けたかのような衝撃。

 何が、と考えるまでもない。

 其処には、雪を手の中で圧縮して「砲弾」を作っているイエティの姿。


「ミョルニル!」


 近寄れないなら、遠距離から。そう判断したキコリの斧に電撃が宿り、即座に投擲される。

 だが……イエティは投擲された斧をヒョイと躱してキコリに氷の球を投げてくる。

 命中しなかった斧は電撃の力を保持したままキコリの手元に戻ってくるが……キコリは軽く舌打ちする。


(強い……! どうすればいい!?)


 近寄れない。ミョルニルの斧は避けられる。

 再度投げた斧も避けられ、ミョルニルに込められた魔力が霧散する。

 このまま2回目のミョルニルを使っても、結果は同じだろう。

 となれば、多少強引にでも当てに行くしかない。

 だが……鎧をガンガンと叩くイエティの氷玉は強力だ。

 とてもではないが、前に進むことなど。


「フレイムスフィア」

「ギ?」

「あっ」


 キコリが攻撃されている間に移動したのだろう。

 イエティの上空に居るオルフェが、巨大な火球を掲げていた。

 イエティの巨体をも飲み干しそうな、その火球にイエティが「ヒッ」と声をあげて。


「焼け死ね、ザーコ」

「ギイアアアアアアアアアアアアアアア!」


 オルフェのぶん投げた火球がイエティに命中すると同時に、オルフェは離脱してキコリの近くへ戻ってくる。


「あ、ついでにファイアアロー。もひとつファイアアロー」


 ズドンズドン、と。容赦なくイエティに叩き込まれていく火の矢は燃え盛りながら暴れるイエティの動きを完全に止めて。


「ま、こんなもんよね」


 ブスブスと黒煙をあげながら焦げたイエティの死骸を見ながらオルフェが勝ち誇る。

 実際、完勝だ。勝ち誇るのも当然の権利だろう。


「その斧、結構遅いわよね。何か対策しないと、今後辛いんじゃない?」

「……だな」


 ミョルニルの改良。

 出来ないわけではないだろう、すでに応用は出来ている。

 投擲速度を上げる事だって、可能なはずだ。

 はずだが……具体的にどうやったものか。


「色々試してみるしかないな」

「ま、頑張りなさい。応援だけはしといてあげるわ」

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