町ではないもの

「人形遊び、か」

「人形でしょ? どう見ても」


 オルフェにドドは静かに頷く。確かにそれについては、ドドも同意するしかない。

 人間……というには完成度が今一歩足りない造形。

 決められた言葉しか話さない、会話というには足りないもの。

 そして、無意味に、そして永遠にウロウロと歩き回るその姿。


「確かにドドも同意する。アレらは……人形だ」

「でしょ」

「だとすると問題は、どうして人形を置いたかだな」

「ま、そういう話になるな」


 ようやく復活したキコリと、その頭の上に顎を乗せてダラけているアイアースが会話に参加してきて。


「お? なんだコラ」

「いいから。キコリが重いでしょ」


 オルフェが大きなサイズになり、アイアースをグイグイと引っ張ってどかそうとする。

 まあ、そういうことをするとアイアースは意固地になってどいたりはしないのだが。

 しかしオルフェはオルフェでそういうことをされると意固地になるので、諦めたりはしない。


「あー……オルフェ、そのくらいで……」

「何よ。アンタの相棒はあたしでしょ? 違うの?」

「それはそうだけどな」

「なら黙ってなさい」


 そうしてキコリを黙らせるとオルフェは再びアイアースを引っ張るが、人間レベルに抑えていようとアイアースの力にオルフェが敵うはずもない。

 ぜえぜえと息を吐くオルフェにアイアースは「ヘッ」と笑うとヒョイと退く。


「ドラゴンに力で勝てるはずねえだろが。しかも妖精がよ」

「挑まなきゃならない戦いだってあるのよ……!」

「おー、そうかい。そりゃすげえや」


 言いながらアイアースは「さて」と手を叩く。


「話を戻すぞ。なんでドンドリウスの野郎が人形を置いたかだな? そりゃ簡単な話だ」

「知ってるのかアイアース?」

「おう。つまりな、ドンドリウスの根暗野郎は自分の作ったものを見た目完璧にしたかったんだろうよ」


 言いながら、アイアースはキコリの眼前に回って指をさす。


「さて質問だ。作りは立派だけど長年人の住んだ形跡のない町。こいつは普通、なんて呼ぶ?」

「廃墟、だな」

 

 キコリは然程悩むこともなくそう答える。そう、廃墟だ。

 建物はあるが、長年人の住んでいない町。そんなものは廃墟以外に言いようがない。

 いや、もっと時間が経てば「遺跡」になるだろうか?

 しかし少なくとも、そんなものを町とは呼ばないだろう……どんなに立派であったとしてもだ。

 町とは人が住んでこそ町になるのだから。

 ……と、そこまで考えてキコリは「そうか」と気付く。


「そういうことか。つまりドンドリウスは自分の作った町が『町ではないもの』になるのが許せなかったんだな」

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