生きている町

 防衛都市から見てソイルゴーレム平原を右に進んだ先の転移門。

 そこを潜ると、あの海とは全く違う場所が目の前に現れる。

 カラカラと乾いてひび割れた大地。

 ギラギラと照らす太陽と、すぐ近くにある巨大な門と壁。

 まるで街のようにも見えるが……此処は一体何なのか?

 門の外にはテントのようなものを張っている冒険者の姿も見えるし、荷車に載せられた樽のようなものもある。

 というか、まさか……あれは商人の露店、だろうか?


「アレは水売りですね。わざわざ冒険者登録してまで売りに来るのですから、止めようとも思いませんが」

「水売り……ああ、暑いからですか?」

「まあ、そういうことです。商売になる上に護衛がいれば比較的安全に商売できるギリギリの位置ですしな」


 つまり、そうやって水を買ってまで長時間の探索を行いたい冒険者がいるということなのだろうとキコリは理解する。


「此処って……何処なんですか?」

「大昔の都市ですね。『汚染前』のものと予想されていますが、迷宮化でこんな近くに来たようです」

「汚染前……」


 汚染地域は人間のせいで生まれたと、キコリは以前オルフェにそう聞いた。

 つまり、この都市はその業によってダンジョンに飲み込まれた場所ということになる。

 そこを人間が漁っているのは、なんとも凄まじいものであるようにキコリには見えていた。


「要は昔の遺跡ですよね? そんなに凄いものがあるんですか?」

「そうですね……ご存じの通り、汚染地域は濃い魔力が染みついていますが、それは汚染地域内の物品についてもそうです。特に『汚染前』から存在しているものは」

「昔の人間が使ってた物がマジックアイテムになってる可能性が高いってことでしょ? あほくさ」

「そういうことです。そうしたものは大抵の場合高く売れますので」

「なるほど……」


 ますます業が深いが、そういうものなのだろうとキコリは思う。

 実際、此処に放置したところで然程の意味はないのだろうし、ならば必要とする人の手に渡った方がいいのかもしれない。

 勝手すぎる理屈ではあるが、つまりそういう理由で此処の長期探索を行う冒険者がいるのだろう。


「……という理由だったのですが、これがそう上手くはいっておりませんでして」

「マジックアイテムが見つからなかったんですか?」


 キコリがそう聞き返すと、ジオフェルドは軽く肩をすくめてみせる。


「目的上、当然武具店や宝飾店、両替商などに狙いが集中するわけですが」

「はい」

「軒並みモンスター化していたようです。故に此処は『生きている町』と名付けられました」

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