元の世界に
「これで首都が3つにゼルベクト絡みの転生者が3人。これで打ち止めと思いたいけどな」
「フン、そんなもんどうだか分かんねえぞ。これで終わりじゃねえって言ったらお前、殺して回るつもりか?」
「いや、それは解決にならないだろ……」
「そういうこった。この世界の事情に首突っ込むつもりじゃねえなら、飛んできた火の粉を払うだけにしとけ」
「……だな」
余計なお世話、という言葉もあるしこの世界では力が全てになりすぎて、自分たちより強い力を信じられなくなっている。
正直に言って、助けたところでキコリたちをどう排除するかを考え始めるような、そんな気がしていた。
それに……この世界に未練も愛着もない。キコリの気持ちとしては「一刻も早く帰りたい」であり、だからこそ真っすぐ法都ポワデリンの中心にある「大神殿」へと向かっていく。
破損の少ない大神殿には無数の神々の神像があったが、キコリは祈らない。
神に祈るまでもなく、帰還の道筋は出来ているのだ。そう、此処にいるレルヴァを従えさえすれば元の世界に戻るだけの力が手に入る。だから、それで。
「……え?」
キコリの目の前で、レルヴァが切り裂かれ消滅していく。そこに無数にいたレルヴァたちが、光る刃に首を裂かれ消えていく。
そう、消えていく。キコリたちは元の世界に帰るための、最後のピースが。
何故。その答えは……そこにいた黒ずくめの男だった。
「暗剣滅殺陣……フン、ヌルゲーすぎるな」
驚愕にその場で固まってしまうキコリに気付いたのか、男はハッと笑う。
「なんだお前等。此処のモンスターは俺が倒したぜ」
「お、前……」
「なんだ? 死んだはずだってか? 身代わりの術ってやつだよ。それよりよお、見ての通り此処は俺がクリアしたんだ。お前らはさっさと消えろ」
消えた。
元の世界に帰る手段が、消えてしまった。
帰れない? 本当に? あと一歩だったのに?
足りないのはレルヴァ? それともレルヴァの持つ魔力?
魔力。そう、魔力。魔力が、足りないのなら。
「おい、キコリ……」
「チャージ」
そう、唱える。幾度となく世話になって、ドラゴンとなってからは意識せずとも出来ていた魔力の外部からの取り込み。
この世界ではドラゴンとしての特権は使えない。当然ながらドラゴンとしてのチャージも出来ない。
しかし、しかしだ。「それ以外」のチャージもキコリはよく慣れている。
魔法はイメージ。そうであるならば、キコリは誰よりも「チャージ」をよく知っている。
だから、吸う。周囲から魔力を。それは散っていったはずのレルヴァたちの魔力の残滓を吸い、周囲の魔力を吸っていく。
「う、うお……? な、なんだこの魔法! なんだお前……まさかお前も!」
「うるさい」
フェアリーマントの生み出す身軽さで一瞬にして距離を詰めると、キコリは男の顔面を鷲掴みにする。
「ぐ、ごの……なにすっ」
「身代わりだか何だか知らないけど、粉々になっても出来るか……試してみろよ」
「まっ」
「ブレイク」
待て、とでも言おうとしたのだろうか。男は一瞬でザラリと砂のようになって崩れ落ちる。
破壊魔法ブレイク。それは今度こそ男を殺し切り……キコリは小さく息を吐く。
(……やっぱり無理があった、か)
元々キコリは人間のころから魔力許容量は変わってはいない。無制限に魔力を使えるドラゴンの権能を常に使用し続けることで誤魔化しているだけであって、許容量を超える魔力がキコリを壊すのは何も変わっていない。
そして……あくまでチャージの主体はキコリであり、レルヴァたちにそのリスクを分散することもできない。
キコリが今倒れていないのは、レルヴァの鎧がキコリの四肢を支えているからに過ぎない。
これで戻れなければ……これ以上の無茶を、キコリの身体は許容しない。だから。
「アイアース……戻ろう。俺たちの世界に」
「……お前、その身体。バレてないとでも思ってんのか」
「大丈夫、レルたちが支えてくれるし……あっちに戻ればどうにでもなる」
こうするしかない。だからキコリは躊躇わない。此処から帰って、魔王を殺す。
その為ならこのくらいは無茶でもなんでもない。
「ルヴ。元の世界に戻りたい。出来るか?」
「魔力は足りております。あとは……縁を辿りましょう。なあに、出来ますとも。お任せください」
止めても意味がない。それが分かるからこそアイアースはキコリの手をとる。
「あっちに帰って全部解決したら、オルフェに死ぬほど怒られるんだな」
「そうするよ」
キコリの魔力を、そしてレルヴァたちの魔力を使って……黒い穴が開く。キコリとアイアースは手をつないだまま、その奥へと進んでいった。
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