君を今から
時間は、キコリたちが異世界へと吹っ飛ばされた直後へと巻き戻る。
キコリたちが消えたのを見て、グラウザードは大笑いしていた。
あの邪魔な……いつの間にか増えていた新米ドラゴンとアイアースが消えた。
これで、トールの邪魔をする奴はいない。
「トール! 平気か⁉」
「ぐ、ああ……大丈夫だ。ヒールくらい使えるからな」
そうしてトールは自分の傷をヒールの魔法で癒していくが、それにしてもまさか「ミョルニル」などという魔法がこちらに存在するとは思わなかった。
(この世界に転生者が俺1人じゃねえことは知ってたけどよ……名前的にそういう魔法使うのは俺じゃねえのか⁉)
トールは自らの元の世界に伝わる神の名を思い出しながらそんなことを思う。
しかしまあ、どうであるにせよあの自分に何故か従わない2人は死んだのだ。
あのグラウザードの黒い球に吸い込まれて死んだ。たぶん重力とかそういう魔法だろう。
「ハッ、傑作だぜ。俺に逆らうからこうなるんだ」
そう勝ち誇ると、トールはグラウザードの上で声を張り上げる。
もう邪魔をする者は居ない。
「さあ、魔物の町の住人たちよ! この俺に、魔王に従え!」
「おおおおおおおおおおおお!」
「魔王!」
「魔王!」
聞こえてくる声に、トールは承認欲求が満たされていくのを感じる。
そうだ、これでいい。これでこそだ。
異世界に転生して、自分は魔物を従え成り上がった。
このチート能力は他の誰にも負けはしない。
そうだ、誰もが俺に従う。ドラゴンだかなんだか知らないが、それだって従属させられた。
ならば、次は人間だ。そうして、世界を征服して。いずれは神だって。
「出来ると思うかい?」
「は?」
トールの視界の先。そこに、いつの間にか1人の少女が浮いていた。
誰だ。分からない。いや、そんなことよりも。
こんな少女は、つい先程までそんな場所にはいなかったはず。
それに……グラウザードが、細かく振動している。まるで、目の前の少女に脅えるかのように。
「シャ、シャルシャーン。何故だ。何故お前がこんな所にいる」
「何故って? 知っているだろう。ボクは何処でもいるし何処にもいない」
「そんな話はしていない! 何故お前が俺の前に現れる! お前、お前は……!」
「落ち着けグラウザード! この子がなんだってんだ!?」
「お前は俺を殺しに来たのかシャルシャーン!?」
トールの声が全く聞こえていないかのようなグラウザードの絶叫に、シャルシャーンの口元が裂けたようにつり上がる。
それは、あまりにも恐ろしい……そんな笑顔で。
「分かっているじゃないかグラウザード。そう、君はその短慮でやってはいけないことをした。だから、君は死ぬ。このボクが……『不在のシャルシャーン』が、君を今からブチ殺すからだ」
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