話し合いの余地
もう凄い勢いで逃げていくドレイクたちをキコリは何が何だか分からないといった表情で見送るが……オルフェとしては当然の結果ではある。
「な、なんでだ?」
「いやまあ、そうなるでしょ。『次はお前の番だ』以外の何に見えるってのよ」
「え? 颯爽と現れた味方っぽくなかったか?」
「突然乱入した猛獣かしらね」
「そんな馬鹿な……え? だって命助けたよな?」
「助けりゃいいってもんじゃないのよ」
難しいな……と呟くキコリにオルフェは溜息をつくが、その一方で安心もしていた。
こうして見ると、もういつも通りのキコリに戻っているようにも見える。
以前失くした記憶ではなくゼルベクトとかいうモノの記憶が一部とはいえ出てくるのはオルフェとしては予想外だった。まあ、過去に何かそういう戦いがあったのなら、その後始末もあったのは当然だが……その結果がキコリの今の人生だというのならば、あまりにも波乱が過ぎる。
とはいえ、オルフェにそれ自体をどうにも出来るはずもないのだが。すでにキコリの精神性は元のものから完全に変化してしまっているのだから。
「うーん……でも他に何か手があるのか? せめて会話できれば……」
「まあ、基本は今のを繰り返すしかないでしょうね」
「え? 猛獣をか?」
「そうよ。敵の敵なんだから、益獣と思ってもらえるかもしれないでしょ。そうしたら話し合いの余地が出来るかもしれないわ」
どのみち、ドラゴンとしての戦闘力をもってしてデモンを制圧する時点で普通のモンスターには脅えられて当然なのだ。キコリはまだ、その辺りをよく分かっていない。
最初に会ったのがヴォルカニオンで、しかもその時にはすでにドラゴンクラウンを持っていたせいで「その他の生命から見たドラゴン」というものを分かっていないのだ。常に自分より上の敵と戦ってきたが故の低い自己評価もそれを手伝っているのだろうが、キコリに言って自己評価が上がるとも思えない。だから、オルフェは「こう」言うのだ。
「だからひとまず、好きにやりなさい。フォローできるところはするから」
「ああ、分かった。それなら安心だ」
アッサリとそう頷くキコリに、オルフェは自分への信頼を感じて「任せなさい」と胸を叩く。
実際にどうフォローしていくかはまだ考えていないが、これだけ数が居ればグレートワイバーンのようなリーダー個体は必ずいるとも予測していた。
「まあ、グレートワイバーンみたいなのもいるかもしれないしな」
「! ええ、そうね」
やはり考えるのはキコリもそこなのだ、とオルフェは思う。まあ、当然だ。あの件を通してキコリとオルフェは絆を結んだのだから。オルフェの傷でもあり……今のオルフェの始まりでもある、そんな事件だった。
だから、覚えていなかったら許さない。まあ、そんなことは口には出さないのだけれども。
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