罵倒のぶつけ合い

「ま、キコリに関してはお前に任せた。俺様は色々と野暮用を済ませてくる」

「……一応聞くけど、何処に行くの?」

「決まってんだろ」

 

 何を言っているんだ、とでも言いたげに面倒くさそうな表情を浮かべ、アイアースはオルフェに答える。


「俺様が会うべき連中にだよ。少しばかり時間はかかる。キコリのことは任せたぜ」

「分かったわ。そっちは任せる」

「……へっ、やっぱ頭いいなお前はよ。じゃ、行ってくる」


 そう言って、アイアースは手を振りながら家を出る。そうして、振り返ったのは「自分の家」と認識する程度には愛着の出来た建物だ。

 今までの人生と比べればたいした時間を過ごしたわけでもないが、面白い日々だった。

 平凡な日々とかいうものを望んだことは1度もないが、それでも随分と面白かった。

 だから、アイアースは久方ぶりに本気というものを出すことに決めた。

 歩いて、歩いて……まず向かった先は、豪華絢爛な都市だ。

 キコリたちは別の場所に引きずり出したと言っていたが……アイアースは、ドンドリウスというドラゴンのことをキコリたちよりは詳しく知っている。

 都市の中に入っていけば人形どもがウロウロとしているし、壊したはずの城は直っている。

 となれば……その主も当然のようにいるだろう。

 城の前に立つと、アイアースは町中に響くような大きな声で叫ぶ。


「おい! ドンドリウウウウウウス! この引きこもりの天才ぶった勘違いの根暗野郎! ダメな要素ばっかり揃えてねえで出てこい! ちょっとはマシなとこ見せてみろ!」


 あまりもシンプルな罵倒に、応える声はない……かに思われたが。城の跳ね橋が降りて扉が開く。まるで入ってこいと言っているかのようだ。


「出て来いって言ったはずなんだがな……まあ、仕方ねえか。ドンドリウスだしよ」


 言いながらアイアースは、前にドンドリウスと会った部屋にスタスタと歩いていく。内部構造が変わっていないのであれば迷う理由もない。

 そうして扉を蹴り開けると、以前も入った少し広い部屋に出る。

 椅子やら机やらが置かれ、本棚らしきものも1つ。

 その机に本を置き捲っている、眼鏡をかけた緑髪の男が1人。

 長い髪を後ろでくくり、何処か知的な印象がある男だ。

 着ている服は白色のカッチリとした服で、知的なだけでなく気難しそうな印象をも与えている。

 ……が、アイアースはそんな姿を見てチッと舌打ちする。


「客を出迎える態度がなってねえぞ、根暗野郎」

「客の態度じゃないな、単純馬鹿」


 互いに相性が最悪な2人の……最強種たるドラゴン同士の会話は、そんな罵倒のぶつけ合いから始まった。

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