危険すぎる単語

「やっぱり起きてやがったな。つーか、いつ目を覚ました?」

「1カ月ほど前だ。私が感じていたゼルベクトの力の破片が何処かに収まったからだ」

「あー、そりゃキコリにだ。そのせいで今も寝てる」


 あっさりと言うアイアースにドンドリウスは「フン」と不満そうな声をあげる。


「やはりそうなったか。当然の結果とは言えるが……私の言った通りではないか」

「シャルシャーン曰く、お前に期待してたらしいがな。ま、俺様から言わせてもらえばお前みたいな引きこもりに期待する方がアレだがな」

「私の不調は世界の現状を監視しすぎたが故だ。大地に接続する性質上、どちらかといえば世界の監視はグラウザードにこそ期待された役割なのだがな」

「あのアホにそんなもん出来ると思うのかよ。そもそもゼルベクトの送り込んだ転生者とかいう奴の手先になった上に死んだぞ、あの究極のアホは」


 アイアースに言われ、ドンドリウスは空を仰ぐ。まあ、予想できた結末ではある。グラウザードはその能力ゆえに、ドラゴンの悪いところが全部出たようなドラゴンだった。もう少し慎重さや知性や根性や実力や性格や言動などが改善出来ていれば、世界の守護者として申し分のないドラゴンとなっていただろうに。そういう意味では、物凄く残念だとドンドリウスは心の底から思うのだ。


「ではシャルシャーンに滅ぼされたか。まあ、仕方がないな」

「そうらしいな。ま、色々と遅かったけどな」

「何?」

「グラウザードの馬鹿、よりにもよって俺様とキコリを別の世界に送り込みやがってな。色々あって戻ってきたんだが……まあ、そうなる前に止められれば最善だった。そうだろ?」


 確かにその通りだ。それはドンドリウスにとっても異論はない。

 よりにもよってドラゴンを他の世界に送り込むとはまさに侵略行為。世界間での戦争が起こっても不思議ではないほどだ。

 それが今起こっていないということは、対処が上手くいったのだろうが……そこにドラゴンな上にゼルベクトの転生体が混ざっていたのは本当に冷や汗モノの話ではある。


「そのせいでキコリに別世界のゼルベクトの力が混ざることになった。そこにきて今回の事態だ。シャルシャーンの代わりにゼルベクトを信奉する奴等の建造した玩具と人造ゼルベクトとかいう奴をキコリがぶっ壊して、その隙を突かれた形になるな」


 そこまで聞いて、ドンドリウスは頭痛を抑えるように眼鏡を動かし眉間を揉む。

 人造ゼルベクト。聞き流すにはあまりにも危険すぎる単語だ。


「……アイアース。茶くらいなら出そう。今の流れを詳しく教えてくれ」

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