嘘でしょ
「あの……ちょっといいですか?」
「ん?」
「どうしたの?」
エイルの言葉に、キコリとクーンが視線を向ける。
「ちょっとした疑問なんですけど……そもそも私たちよりずっとベテランの先輩方はこの先に行ってると思うんですけど。どうしてあの集落は平和で、此処に見張りがいないんでしょう?」
言われて、キコリとクーンはバッと顔を見合わせる。
確かに、その通りだ。いくら何でも平和な光景過ぎる。
冒険者の道の先にあの集落があるなら、先輩冒険者たちが此処を通っているなら。
少なくとも厳重な警戒態勢が敷かれていないとおかしい。
此処にオークの軍勢が居てもおかしくないのだ。
なのに、それがないというのは。
「クーン。もしかして移動先ってランダムなのか?」
「いや、そんな話聞いたことないよ。ゴブリンの勢力圏の先はオークの勢力圏。だから、いやでもこれは……」
「あくまで錬金術師としての観点からなんですけど……何かが起こって『空間の歪み』なるものが発生したと仮定して。たまたまそれが長期間安定してたからといって、永遠にその状態が続く保証はないと思うんです」
もしそうだとすると。
今見えている「オークの集落」は、全く未知のもの……これまで襲撃に晒されていなかったもの、ということになるのだろうか?
「だとすると! クーン! エイル! 一度戻ろう!」
キコリはクーンとエイルの手を引いて、元来た方向への空間の歪みへと入る。
そうすると、その先は当然元の森……ではない。
そこに広がる光景は、何処かの平原だった。
「な、んだコレ……」
「嘘でしょ、ここに来て空間の歪みの法則が変わった……?」
「あの、これってもしかして……帰り道が……」
何故かは分からないが空間の歪みの法則が変わっている。
いつから? 何故? 何も分からない。
これが報告されていないということは、未だ元の場所に戻れた人がいないということかもしれない。
拙い。キコリの脳が、今がどれだけ拙い状況かを「焦り」という形で警告してくる。
相手が何かも分からなくなった。
既存のモンスター分布など、もはや何の意味もない。
とにかく空間の歪みに飛び込んでいかなければ、帰る算段すらつかない。
そしてそれは、モンスターの勢力圏を突っ切るのと同じだ。
モンスターですら、この状況を理解できているか分からないというのに。
「……!」
ヴヴヴ、という凄まじい羽音をたてて巨大なハチがやってくる。
黄色と黒の、明らかに自分が危険であると示すかのような色をした巨大なハチが飛んでくる。
刺されたら一撃で死にそうな針と、ガチガチと鳴る牙を携えて。
「ミョル……ニルウウウウ!」
相手がどの程度強いのかも分からない。
近づかれたら負けなタイプのモンスターだったら、近づかせないしか手がない。
何も分からないうちは火力と射程のある攻撃で対処するしか方法はない。
初手からミョルニルを使用したキコリの投擲が、轟音と共に放たれた。
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