生き残ろう

 ズガン、と。投げたマジックアクスがハチを切り裂き、電撃で黒焦げにする。

 キコリよりもずっと大きなそのハチは、この領域の支配者なのだろうか?

 鈍い音をたてて地面に落ちるハチから視線を外し、キコリは周囲をゆっくりと確かめる。

 分からない。此処は平原だというのに、一体何処から。

 目を凝らして、よく見ると緑色のつるっとした木のようなものはあるが……いや、違う。

 あれはやけに大きいが花だ。そして、ハチの巣らしきものはない。なら、何故?

 周囲を更に見回せば……気付く。地面から、ハチが顔を出している。


「地中……!? 地面の下に巣があるのか!」


 だとすると、拙い。こんな草や花が青々と生えた平原で地面に空いた穴を探すのは無理が過ぎる。

 此処から先に向かうのは……自殺行為が過ぎる。


「戻ろう。此処は危険すぎる」

「うん、僕もそれがいいと思う」

「同じくです」


 まださっきのオークの集落の方がマシだ。

 そう考え、キコリたちは再び元の空間の歪みに飛び込んで。

 辿り着いたのは……真横を川が流れる、平原だった。


「は、はは……どうなってんだコレ」

「拙いよ。既存の地図が役に立たないどころか、これって……」

「道を覚えられない。こんなの、最悪ですよ……」


 空間の歪みによる移動先が完全にランダムになったとして、それは帰還が困難になったことを意味するが……それは、手持ちの食料が心もとないものに変わったことも意味する。

 餓死。そんな言葉がキコリの中に浮かび、頭を振ってその考えを追い出す。


「……イノシシ」


 視線の先で草を食んでいるイノシシモンスターを見つけ、キコリはぼそりと呟く。

 確か、汚染地域のモンスターは処理をしないと食べられたものではないという話だったが……。


「クーン。汚染地域のモンスターが食べられない理由って知ってるか?」

「え? えーと魔力を抜かないとマトモに食べられるものに……って、まさか」

「その理屈なら、食える。俺にはコレがある」


 言いながら、キコリは鎧を軽く叩く。

 触れるものの魔力を吸い取るこの鎧であれば、その「魔力を抜く」作業がすぐに出来る。


「確かに……でも、はは。そうだよね。その可能性も考慮しなきゃいけないんだ」

「ああ。折角食えそうなモンスターがそこにいるんだ。保存食はとっておこう」


 どう帰ればいいかは分からない。

 けれど、ただで死ぬ気は微塵もない。

 神官のクーンがいるから怪我は治せる。

 錬金術師のエイルがいるから食べられる野草の類だって分かるかもしれない。

 そしてキコリは……倒れるまで戦える。

 生きる役には立たないが、死なない役には立てる。


「……生き残ろう。俺たち、全員で」

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