僅かな愛着

 その後連れていかれた店はオークが運営している酒場らしく、昼間から酒を出しているが……取りまとめ役のオーガの乾杯の音頭がこれまた酷いものだった。


「今日は『町長殿ってマジでいたんだな』記念だ! オラ飲むぞかんぱーい!」

「イエー、カンパーイ!」


 本当にあの町長、外に出なかったんだな……と思いながらキコリは果実ジュースを飲む。

 というか、理由つけて昼から飲みたかっただけじゃないかと思わないでもないのだが、それを言うのは野暮というものなのだろう。


「まあ、適当なところで抜け出すか」

「そうね」


 オルフェも木の実の盛り合わせをポリポリと食べながら頷くが、そんなキコリたちにオーガが酒を飲みながら近づいてくる。


「よう、しっかり食ってるか?」

「飲んでるか、じゃないんだな」

「ウハハ! 仕事前に飲んでるようじゃダメだろ! 俺は今日はもう仕事しねえから飲んでるわけだな!」


 その辺の線引きはしっかりしてるんだな、と妙な感心をしながらキコリは「そうだな」と頷くが……そんなキコリに、オーガは声を潜め囁く。


「……一応言っとくがな。無茶はすんなよ。命は1個だ。どんなモンスターでもそいつは変わらねえ。お前がドラゴン名乗ってようとな」

「それを言うためにこの宴会を?」

「いや、単純に応援だ。町長直々の仕事なんざ、どう考えても町のための大仕事だ。なら奢る程度しなきゃ嘘ってもんだろ」


 なるほど、納得するしかない理由だ。たぶん「今まで帰ってきていない」連中のことも察していて、最後の晩餐的な意味も含まれているかもしれないが……どちらにせよ善意であることは間違いない。

 飲んでいる人々を見ながら、キコリはこの町に感じていた僅かな愛着を強くする。

 此処は、恐らく物凄くつながりが強いのだ。キコリたちも彼等にとっては、その輪の中ということなのだろう。それは、ひどく暖かなもので……人間の町では狭い範囲でしか感じなかったものだ。

 だからこそキコリの中でこの町は、他とは少し違う分類に分けられた。


「なあ、名前はなんていうんだ?」

「俺か? 俺はザムザ。よろしくな」

「そうか。ザムザ、俺はキコリだ。帰ってきたら個人的に奢るよ」

「おお、待ってるぜキコリ」


 そんな約束を1つ、交わして。キコリは「行こう」と仲間たちへ声をかけ立ち上がる。

 執事に貰った地図では、少しばかり日数のかかる旅となる。早めに準備して行く必要がある。

 幸いにも、この町で稼いで資金にはかなり余裕もある。存分に準備は出来る。

 そうしてキコリたちはフレインの町を旅立つ。目指すは「創土のドンドリウス」の領域だ。

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