いい奴

 そして当然のことなのだが、キコリたちが町長の家に招かれたという話は凄い勢いで伝わったようで、キコリたちが紹介所に出てくると視線が一気に集まり、そのままゾロゾロとついてきてしまう。


「おい。なんだコレ」

「いやまあ、こうなるでしょうね」

「どうする?」

「どうするもこうするも……どうしようもないだろ」


 3人に言われキコリは肩をすくめるが、実際どうしようもない。

 話しかけてこないのは何故かという疑問は、紹介所を出てしばらく進んだところで氷解する。

 ついてきた面々が、一斉に話しかけてきたのだ。


「よう、すげえな!」

「町長と会ったのは初めてじゃね?」

「なあ、何話したんだ!? 聞いていいやつか!?」

「飯奢るからよ、聞いていい部分だけ聞かせてくれよ!」

「うわっ!?」


 一気にくる質問の雨嵐……単純な賞賛も混じっているが、どうやらキコリたちが紹介所を出るのを待っていたらしいということだけはよく分かった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話していいか分からないから町長の執事にでも聞いてくれ!」

「そりゃそうだ」

「おーい、やっぱダメだってよ!」


 オーガの1人が声をあげると「なんだ」「ダメかあ」「そうだろなあ」と残念そうな声が聞こえてくる。なんとも統率が取れているのか治安がいいのか、それとも両方なのか。

 ともかく、この場で一番発言力があるらしいオーガがキコリに力強いウインクをしてくる。


「ま、いいや。飯食う時間はあるのか? 奢らせてくれよ」

「まあ、あるけど。話せることもあるか分からないのに奢られる理由がないぞ」

「そんなもん気にすんなよ。奢りたい時が奢り時だろ」


 その辺の感覚はキコリにはちょっと良く分からないのだが、無理に断るものでもない。

 ないが……1つだけ残っていた疑問をキコリはオーガにぶつけてみる。


「ところで、なんでこのタイミングで声かけてきたんだ?」


 キコリがそう聞けば、オーガは近くに居たトロールと顔を見合わせる。


「いや、そりゃなあ」

「ああ」

「紹介所とその入り口付近で騒いだら迷惑だろ」


 マナーだよなあ、と頷きあうモンスターたちにキコリも思わず「そうだな」と答えるしかない。

 正論だ。あまりにも正論過ぎて頷くしかないというのが本当にあるとはキコリも初めて知ったのだが……ひとまず、気の良い連中であるのは確かなようだった。


「まあ、なんていうか……ああ。いい奴なんだな、あんた」

「いい奴ゥ?」


 オーガはそこで妙な顔をすると、近くのハイスケルトンに声をかける。


「俺、いい奴か?」

「普通だなあ」

「普通だってよ。俺のどの辺がいい奴なんだ?」

「……そういうとこじゃないか?」


 オーガは首を傾げてしまったが……その後「集まりすぎだ」とある程度解散させている面倒見の良さも含めて「いい奴」なんだろうなあ、と。キコリはそう思うのだ。

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