だから今夜は動かない
夜になっても王都ガダントは魔石を利用した明かりが煌々と辺りを照らしている。
酒場のあちこちから笑い声が聞こえ、道端でも酔っ払いたちがジョッキをぶつけ合っている。
それだけに衛兵もあちこちを巡回しており、しっかりと統制された騒がしさがそこにあった。
そして……そんな中の一角にある宿の部屋にキコリたちの姿はあった。
「……監視がいるな」
「でしょうね」
窓の外。酒瓶を抱えた酔っ払いに見えるが、視線がキコリたちのいる部屋に向けられている。
キコリたちが夜にこっそり侵入しないか、念のため見張っている……といったところだろう。
もしかすると、今までそういう侵入者が多かったのかもしれない。
キコリたちが宿を出れば彼のような見張りから連絡が行き、黒鉄山脈に侵入しようとした時点で確保にくるのだろう。
だからこそ、キコリたちは宿から出ていくわけにはいかない。
「で、具体的にどうするの?」
「まずは……こうする」
キコリの鎧から影のようなものが分離し、レルヴァの姿になる。それは普段はキコリの鎧になっているうちの1体であり、キコリと繋がっていて意思疎通が可能な魔力生命体でもあった。
「ギイイイ……」
「え、そいつにやらせるの? 大騒ぎじゃない?」
「ちょっと見せてやってくれ」
キコリが言うと同時にレルヴァはその場で黒い霧となって霧散し、そのまま見えなくなる。
「え? ど、何処行ったの?」
「オルフェの影」
「影?」
オルフェが自分の影を見ても、そこには普通の影があるだけに見えたが……オルフェの視線に応えるかのように影が変化しレルヴァのソレになっていく。
「う、うわあ……」
自分の影からせり上がってくるレルヴァを見て、オルフェはなんとも言い難い声をあげるが、同時にキコリが何をしようとしているかを察してしまう。
「なるほど、こいつで今から潜入させようってわけね」
「ちょっと違うな」
「ちょっとって……どの辺が違うのよ」
「今やっても警戒してる。だから今夜は動かない」
悪魔憑きなどという言葉があるように魔力生命体の存在自体は広く知られている。
対処法までは存在しないが、そういうものがあること自体は分かっているのだ。
ならば、普通の人間は入ってこない夜に「何か」が来ることをより警戒している可能性は高い。
そう、夜とは警戒がより強くなる時間帯なのだ。そんな時間にわざわざ入ることはない。
「動くのは明日の朝だ。普通に黒鉄山脈に入れる連中に……レルヴァたちをつけていく。そうすれば中をある程度探れるはずだ」
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