我が国の象徴

 そうしてキコリたちはそれなりの時間待たされてしまったが……結果として、どうやらそれなりの立場にある人物を引っ張りだせたようだった。

 護衛に守られながら歩いてくるドワーフは、如何にも高そうな服を纏っているのが分かる。

 問題は、具体的にどういう立場か分からないことだが……まあ、その辺は流れで理解するしかない。

 とにかく、その人物たちはキコリを見つけると歩いてくる。ならばとキコリはひとまずその場に跪く。対応が分からない場合はこうしておけばひとまずは問題はない。

 実際、ドワーフのお偉いさんは偉そうな態度のままのオルフェをチラリと見てからキコリに視線を向け、鷹揚に頷く。


「黒鉄山脈を見学したいというのは其方か」

「はい」

「うむ。確かに凄まじい装備だ……私に話が来たのも分かる」

(また装備か……ドワーフは皆好きってことか?)


 どうやら決め手は歌というよりは装備だったらしいが……それでお偉いさんを引っ張りだせたなら、別にどっちでもキコリとしては構わない。


「其方、名前は?」

「キコリです」

「ふむ。ではキコリよ、其方は黒鉄山脈を何だと考えている?」

「この国で使う鉱石の採れる鉱山であり、象徴であると考えます」

「ある程度合っているな。象徴が先にきて、鉱山がその後に続く。黒鉄山脈は、我が国の象徴だ。さて、ここまで言えば分かると思うのだが……」

「許可できない、と?」

「基本的にはな」


 これはなんとも困った話だとキコリは思う。鉱山であるより先に象徴であるがため、出入りを許可できない。そう言われてしまえば説得は不可能だ。


「でも鉱夫は入ってるんでしょ?」

「妖精のお嬢さん。それは彼等がドワーフだからだ。ドワーフは一振りごとに黒鉄山脈に感謝するように生まれたときから教育を受けている。それは黒鉄山脈が神々からもたらされた至宝であると考えるがゆえだ。だが他の種族にそれができるかね?」


 なるほど、これは信仰だ。黒鉄山脈は聖地のようなものなのだろう。鉱山は他にあっても、黒鉄山脈での採掘はそれ自体が信仰であり祈りということだ。であれば、そこに踏み込むという話は……危険だ。ドワーフ全体を敵に回す危険性がある。

 だから、キコリはそれ以上粘らないことを決める。


「……分かりました。他種族は近づいてはならない。そういうことですね?」

「うむ。其方にはすまないと思うが、これは我々の信仰の問題だ……理解してほしい」

「勿論です」

「聡明なる其方に感謝を。儂はこのアダン王国の宰相、ビオだ。何かあれば話くらいは聞こう……ではな」


 宰相ビオが立ち去って行ったのを確認した後、キコリはその場を去り歩き出す。

 その後をオルフェについてくるが……キコリの耳の側で小さく囁く。


「何、諦めて帰るの?」

「そんなわけないだろ。いくらでもやりようはあるさ」


 そう言うキコリに応えるように、兜のバイザーがカタカタと小さく震えていた。 

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