理解の及ばぬもの

 そうするのが何より良いと信じて疑わない、そんなドンドリウスの提案に、オルフェは。


「フレイムトルネード」

「ぬおっ!?」


 ドンドリウスを包み込むような炎の竜巻で応じた。まあ、当然のように効いてはいないが……ドンドリウスは訳が分からないといった表情をしている。

 何故。そう思うのはひどくドラゴンらしい思考で。だからこそ、オルフェの心には微塵も響かなかった。


「何故!?」

「何故、じゃねーのよ。ほんとアホなんじゃないの?」


 言いながらオルフェは、ドンドリウスへと炎の魔法を連打していく。そのどれも、ドンドリウスには通じないけれどもオルフェは気にした様子もない。

 

「裏切らないから相棒なのよ。あと、アイツの名前はキコリよ。間違えんじゃないわよ」

「相棒だと!? そんな一時の情に惑わされ……」


 そう言いかけて、ドンドリウスは気付く。キコリが、その場にいない。

 いや、分かる。このパターンは先程も。ということは。


「そんなものに惑わされてるからこそよ。妖精はそういうのに世界一正直な種族よ?」

「おのれ! だが同じ手が二度も……!」


 そう、二度は通じない。それは普通のことだ。ドラゴン相手であれば当然のこと。

 けれどもそれをキコリは押し通す。そう、何よりも思い出のある技であればそれが出来る。

 そうするために必要なのは、殺意。

 こいつを殺すという明確な、濃厚な殺意。頭の中を、全身全てを、ただそれだけで満たしていく。

 どうすれば、とかどうやる、とか。そんなことすら必要ない不純物だ。

 ただただ、殺意のみを満たしていく。そう、バーサーカーには本来それ以外は必要がない。

 それこそがウォークライ。そしてそこに魔力を籠めればドラゴンロアになる。

 だが、キコリですら気付いてはいない。バーサーカーとしてのウォークライを下敷きにしたドラゴンロアは、ただのドラゴンロアなどでは断じてないということを。

 そう、それはまさにドラゴンに至ったバーサーカーの本気の殺意。

 ドラゴンであれば必要のないバーサーカーという生き様から放たれる、泥まみれの、血塗れの、そして……命を惜しまぬ突撃宣言。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 叫ぶ。空気を震わせキコリは吠える。

 殺意が身体に満ちる。恐怖が身体から抜けていく。

 メンタルが、命を惜しまぬ戦士のものへと切り替わる。

 実力差は何も変わらない。同じドラゴンに、それも自分より強い相手には何の意味もない。

 けれど、けれど。一瞬、ドンドリウスは「理解」が出来ずに固まった。

 同族に……認めていないといえど同じドラゴンに、ここまでの本気の殺意を向けられた経験がない故に。そこに籠められたものが理解の及ばぬものであったが故に。

 ドンドリウスは、振り下ろされた斧を回避することを忘れていた。

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