それが正しいのか

 そして、数日後の早朝。ゴーストが眠り始めるその時間にキコリとオルフェは、フレインの町を出た。

 見送りは、アイアースとドドだけだ。あまり大仰な見送りは要らないと事前にミレイヌに伝えたのが功を奏したのだ。

 アイアースは眠そうに、ドドは心配そうな表情を隠せないといった様子でそこに立っていた。


「ま、死なねえようにするんだな」

「気を付けて行ってこい。ドドは、祈るくらいしか出来はしないが……」

「ありがとう、2人とも」


 そんなやりとりをして、キコリたちはフレインの町の門を出て。その背中に、アイアースが「おい」と声をかけてくる。


「上手くいかなくても、そんなもんだ。気にしねえで帰ってこい」

「……ああ、分かったよ」


 アイアースにそう応え、キコリたちは歩き出す。行先は、ひとまず行ったことのない方向だ。

 何処へ向かえばいいか正解が分からないのだが、ひとまずは直感任せ。

 また世界の歪みが進行するようなことにならなければ、大雑把なマッピングをしておけば帰り道を見失うこともない。

 遠くなるフレインの町を見ながら歩けば、キコリはなんとなく懐かしい気持ちになる。

 オルフェとの2人旅。そんなものは物凄く久しぶりだ……まあ、実際にはルヴたちもいるので2人ではないのだが。


「キコリ」

「ん?」

「アタシは人間との協力なんて無理だと思ってる。だから、いざとなったら殺すことに躊躇はしないわよ」


 まあ、そうだろうなとキコリは思う。オルフェは妖精だ……妖精女王になったからとて、人間嫌いが変わったわけでもないだろう。それについては、キコリも止める気はあまりない。


「ああ、分かってるよ。その時はもう仕方がない」


 だから、キコリはそう答えて。しかしオルフェは、何とも言い難い微妙な表情でキコリを見ていた。


「な、なんだ? 何か変なこと言ったか?」

「いいえ。普通よ。さ、行きましょ」

「ああ」


 飛んでいくオルフェを追うようにキコリは歩きながら疑問符を浮かべるが、それはオルフェだからこそ分かるキコリの変化だった。


(人間を明確に切り捨てた、か。完全にこっち側ね……)


 オルフェはそれでも構わない。遠からず、そうなる運命だったものをオルフェが無理矢理押しとどめていたに過ぎない。

 異世界での話は聞いたが、それがキコリの中に更なる変化と適応をもたらしたのだろう。

 今のキコリは、かつて人間だった頃と感覚や価値観が完全に逆転している。

 それが正しいのか間違っているのかだけは……オルフェにも、区別はつかなかった。

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