嘘つく奴は妖精が嫌う

「いいのか? 迷惑じゃないか?」

「本当にフェアリーマントがあるんなら、そんなことにはならないよぉ。それに……」

「それに?」


 キコリが聞き返せば、セランは悪戯っぽくニッと笑う。


「みーんな、起きちゃっても面白がって喜ぶと思うよぉ?」


 それは、とても妖精っぽい言葉で。キコリもつられて笑ってしまう。


「よし、じゃあやってみるか」

「そうこなくっちゃあ!」


 力を籠めて、跳ぶ。キコリの身体は、キコリ自身が思うよりも高く跳んで。

 高い場所にある木の枝を蹴って、更に高く跳ぶ。

 木よりも高く、月よりは下を……森の上をセランと共に舞う。

 当然、キコリに翼は無いから落下していくが、木の枝を蹴って新妖精村の中を跳んで回る。

 タン、タン、タン、と。まるで羽が生えたかのようにキコリは跳ぶ。

 当然、本当に飛んでいるセランほどの自由さはないものの……ミョルニルの副産物による飛翔や力任せのジャンプに比べれば、余程軽やかに、ずっと美しい。


「あはは、面白いねぇキコリ!」

「ああ、面白い……! これがあれば大分違う!」


 フェアリーマント。妖精の軽やかさ。その力はキコリの中の「出来る事」を大幅に増やしてくれるという確信があった。


「感謝してくれていいんだよぉ?」

「おいおい、俺へのお礼じゃなかったっけ?」

「そうだったかもぉ! あははっ」


 そうしてキコリが着地すると、セランがその頭に着地して。

 

「あー、セランだけずるーい!」

「ドラゴニアンと遊んでる!」

「私も遊ぶー!」


 そこかしこの家々から、起きてしまったらしい妖精たちが飛び出してくる。


「起こしちゃったか」

「起こしちゃったねー」


 苦笑するキコリに、セランも笑って。


「何やってたの? わたしともやろーよ!」

「私も私もー!」

「えー、私とだよー!」


 妖精たちに四方八方から引っ張られてキコリがどうしたものかと考えていると……キコリの目の前に、別の妖精がスッと顔を出す。

 そのよく見知った顔に、キコリの口の端がヒクッと動く。


「ずーいぶんと楽しそうじゃないの? ええ? おい」

「オ、オルフェ……何怒ってるんだ?」

「相棒が寝てる間に他の連中とワイワイと……普通起こすんじゃないの?」

「い、いや。寝てるとこ起こすと悪いだろ?」


 キコリがそう言えば、オルフェは大きく溜息をつく。


「……アンタの場合それが言い訳じゃなくてマジだから怒りにくいのよねえ」

「えーっと? ごめん、よく分からない」

「その場を取り繕おうと嘘つく奴は妖精が嫌うってこと」

「あ、なるほど」

「ま、その様子だとどんな能力を得たかは分かったんでしょ? すぐ近くにいたアタシを放置して」

「……ごめん」

「ふーんだ」


 どう機嫌をとったものか。オロオロするキコリの頭の上でセランが「おもしろーい」と笑っていた。

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