歪みの始まった場所
アイアースの領域を抜けると、そこは何処かの建物の中にも思える石造りの壁に囲まれた場所だった。
暗いその場所でもそれが分かったのは、シャルシャーンが転移と同時に明かりの魔法である光球を浮かべたからだ。
まるで通路のようにも見えるこの場所はシンと静まり返っており、しかし道幅と天井はやけに広く作られていた。
「変な場所だな……」
「ドドは疑問に思うのだが、1度戻って別の場所から行けば違うところに移動できるのか?」
ドドの疑問はもっともで、しかしシャルシャーンは「出来ないよ」と肩をすくめる。
「出来ない? 何故だ?」
「簡単に言えば安全装置のようなものが働いているのさ。いきなり壁の中にいるようなことがないように、通り抜けるものを安全に誘導しているんだ」
「だが先程の場所は」
「アイアースの領域に安全な場所などない。そういうことだね」
それを聞いてドドは頭を抱えてしまうが、キコリは浮かんだ疑問をシャルシャーンへとぶつける。
「誘導しているって言ったよな。『誰』が誘導しているんだ?」
「君たちがダンジョンと呼ぶ、この場所だよ。もっと正確には大地の意志とでも呼ぶべきかな。この恐るべき異常の中でもボクたちを保護しようという意志が働いているわけさ」
異常。なるほど、確かに異常なのだろう。こんなものが正常であるはずもない。
だからこそ人間も防衛都市などというものを築いたのだろうと、キコリはそんなことを思う。
「シャル……は、ドラゴンだからそんなに色々と詳しいのか?」
「ドド。ドラゴンだから詳しいんじゃない。ボクだから詳しいのさ」
ドラゴンにも色々いるからね、と言いながらシャルシャーンはキコリに視線を向ける。
「どうせ後でバレるから教えとくと、キコリもドラゴンだぜ?」
「人間でないのは分かっていたが……なるほど、ドラゴンも色々だとドドは理解した」
「その理解のされ方は……いや、いいか」
キコリは溜息をつくと、通路の先の暗闇を見つめる。
「とりあえず、此処を抜けなきゃいけないんだよな?」
「そうだね」
「道は教えてくれるのか?」
「そうだなあ……ちょっと待ってくれるかい?」
シャルシャーンはそう言うとしばらく虚空を見つめて、やがて「おっ」と声をあげる。
「なるほどなあ……まさか此処に繋がるとはね」
「知ってる場所なのか?」
キコリがそう問いかければシャルシャーンは「当然さ」と答える。
「此処はね、歪みの始まった場所さ。そして、ボクが勘違いしたクソバカ野郎を粉微塵にした場所でもある。その、丁度地下深くだね」
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