やっぱりメンタルがドラゴンなんだよな
2つのドラゴンブレスが衝突した余波は、驚くほどに無かった。
いや、正確には爆発音のようなものが響いていたが、キコリたちに衝撃が伝わることはなかった。
その理由が、キコリたちを守るように展開された薄い光の幕であることはすぐに理解できた。
その静寂の中で、シャルシャーンからとんでもない圧が発せられ……オルフェと、落ちてきてシャルシャーンにキャッチされたドドが脅えたような声をあげる。
そして……シャルシャーンが周囲に響き渡る大声で叫んだのは、その瞬間だった。
「アイアアアアアアアアアアアアアスッ! この自己愛ばっかり肥大化したビビリ野郎! そんなにボクと殺り合いたいか⁉ そんな度胸もないくせに連れがいれば殺せると踏んだか⁉ ボクが『どういうドラゴン』か、まだ教え足りなかったか!」
空間の歪むような、軋むような音がする。空中に、巨大な白亜のドラゴンの頭が現れる。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ。現れたドラゴンの頭は口を開き、同時にシャルシャーンの……先程のものと全く同じドラゴンブレスを先程水のドラゴンブレスが飛んできた方向へと叩き込む。
それとほぼ同時、あちらこちらの方角からシャルシャーンのドラゴンブレスが放たれるのをキコリたちは見た。
10本、20本、30本。無数の光の粒を無数に内包した漆黒のドラゴンブレスが柱のように「何処か」に向けて突き立っていく。
それはオルフェとドドだけではなく、キコリにまで死の恐怖を感じさせる光景で……キコリを抱きかかえるオルフェの腕が震えているのをキコリは感じていた。
(不在のシャルシャーン……これほどまでの……!)
キコリの前でシャルシャーンが違う姿で同時に3人に増えてみせたことがあったが、あんなものはシャルシャーンにとっては遊びですらなかったとまざまざと思い知らされる。
何処にでもいるし、何処にもいない。まさかそれがこれ程までに文字通りの意味であるなど、誰が想像出来ただろうか?
此処にいるシャルシャーンとて、まるで本体のように振舞っているが……そもそも本体などというものが存在するかどうかも怪しい。
そして、無数のドラゴンブレスが放たれ、今度は爆発が起こらず消えていき……荒れ狂っていた海が、今までは何だったかと問いたくなるほどに凪いで静かになる。
「こ、殺したのか?」
「まさか! アイツは生き汚いからね。このくらいじゃ死にやしないさ」
「とんでもないな……」
「あはは! 今言っただろう? 『このくらい』程度なんだよ、ボクたち基準ではね」
「ド、ドラゴン……」
「ん?」
シャルシャーンは聞こえてきた声に、ようやく思い出したように自分の掴んでいたドドに気付く。
「あー、やっべ忘れてた。ま、とりあえず此処抜けようか。フォローはその後でいいや」
そう言って飛んでいくシャルシャーンを見ながら、キコリは「やっぱりメンタルがドラゴンなんだよな……」と、そんなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます