この世で、一番生き残る術に長けたドラゴン

 アイアースは何度も何度もシャルシャーンにちょっかいをかけたから、知っている。

 今のシャルシャーンは……「不在のシャルシャーン」は、明らかにドラゴンとしての力を減衰させている。

 何処にでもいて、何処にもいない。

 その言葉通り、恐らくシャルシャーンに認識できない場所はほぼ存在せず、シャルシャーンのいない場所もまた無いだろう。

 しかしながら、それはシャルシャーンのドラゴンとしての力を世界中に分散させるものでもある。

 ハッキリ言って、そんなことをする理由があるとすれば……「そうせざるを得ない何か」があるからとしか考えられないのだ。


「シャルシャーンが完全体なら、他のドラゴンなんざ要らねえはずなんだ。だがそうせずに『他のドラゴン』が生まれている。つまり、その「何か」は継続中ってわけだ」

「それがゼルベクトだと?」

「知らん。だがまあ、俺様たちはそんな言葉を聞いたことがねえ……つまり破滅だのゼルベクトだのは今この場で何かをするような状況にねえってことになる」

「なら、何故その話を……」

「そうだなあ……」


 キコリの問いに、アイアースは扉の外に目を向ける。そこには、見慣れたハイオークの姿がある。

 此方に向かって歩いてくるドドに、キコリは「ドド!」と声をかける。


「無事だったんだな」

「ああ。ドド、無事ダ」

「オルフェはどうした? まさか怪我したのか⁉」

「無事ダ。ちょっト来てクれ」


 頷くキコリの側を三叉の槍が通り過ぎ、ドドの頭を刺し砕く。

 壁に突き刺さる槍がその音を響かせる前に、キコリは怒りの表情でアイアースへと振り向く。

 だが、アイアースは涼しい表情でドドを指差す。そして、キコリは見た。


「これ、は……!?」


 どろりと溶け崩れていくドド……いや、ドドとは呼べないソレは、明らかにハイオーク以外の何かだ。

 そして……アイアースの三叉の槍が貫いたドドの頭部だった場所には丸い球のようなものがあり、パラパラと砕け堕ちていた。


「メモリースライムだ。おかしな性質を持ったやつでな? コアに変身相手の情報を記録して、そっくりに化けるんだ」

「どうやって見分けたんだ?」

「あの下等生物、あそこまで語りがヘタじゃあなかった。たぶんコピー時に解釈が充分じゃなかったんだな。で、話を戻すんだが」


 言いながら、アイアースは壁に刺さった三叉の槍を引き抜く。


「俺様は他の連中が言うほど馬鹿じゃねえ。こういうのが出る以上は、その辺をハッキリわからせてやろうと思ってなあ?」

「お前。こんなモンスターが出ることを知って……?」

「知らねえ。だが気付いた。覚えとけ、キコリ。俺様は『海嘯のアイアース』。この世で、一番生き残る術に長けたドラゴンなんだぜ」

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